数日後、隆嗣はオフィスで書類の束をめくっていた。今のうちに整理しておかなければならない仕事が山積みなのだ。

 デスクの上に置いていた携帯電話が鳴り始めた。その画面には『祝平』の文字が記されている。

「元気かい?」

(学校の口座へ振り込みがあったよ)

 祝平は、挨拶の言葉も省いて本題を報告してきた。

「よかったな」

(それが、李傑の100万元のほかに、別口で振込み人不明の100万元の入金があったんだ……。君なんだろ?)

「さあね」

 隆嗣は努めてさりげなく応じた。自己満足のためにしたことだと弁えている。

(ありがとう)

「金は所詮金さ。君は感謝などする必要はない。俺はただ自分の復讐のためにやっているだけさ。子供たちのために良い学校を作り上げてくれ。それが君の天命、なんだろ?」

(……ああ)

 それ以上話す事はないだろう。隆嗣は通話を切って携帯電話をデスクの上に放り、革張り椅子の背に半身を預けた。視線を転じると、デスク脇の窓から摩天楼街が見渡せた。

(つづく)