「多忙でいなければ」という強迫観念に襲われている

 マルチタスクを試みる行為は、「多忙でいなければならない」という強迫観念とむすびついている。と同時に、そうした試みを続けていると、精神的にまいってしまう(自分がいかに慢性的にマルチタスクにハマッているかは、『SINGLE TASK 一点集中術』の簡単なテストでチェックしてみてほしい)。

 先日、空港で搭乗手続きの列に並んでいたときのことだ。待合室のテレビからとめどなく耳障りな音が垂れ流されるなか、そばにいた旅行者が連れに「ぼくらは四六時中、なんの役にも立たない情報の砲撃を受けている」と言うのが聞こえた。

 おっしゃるとおり。

 私はペンシルベニア大学アネンバーグ・コミュニケーション大学院で、ある教訓を学んだ。メディアは「どう考えるべきか」を教えることはできないが、「なにについて考えるべきか」は伝えられるということだ。だが残念ながら、メディアが「くだらないことについて考えろ」と情報を発信することが多いのも事実だ。

 かつてニュース番組とは、いくつかの局が夜の1時間を費やしてニュースを伝えるものだった。ところがいまやニュースは24時間、無数のメディアから絶え間なく流されている。

 と同時に、私たちが注意を持続できる時間はもはや光速並みにまで短くなっている。テレビのCMやミュージックビデオでは、たった1分間に30以上もの画像が継ぎあわされていることも少なくない。

 私たちを取り囲むメディアから発せられる情報は細かく、増えていくばかりだ。私たちは、こちらの気を引こうとするものからつねに砲撃を受けていて、それにつれて、ものごとをじっくりと考えないように脳が飼いならされていく。