これまで、多忙な中で生産性を上げるために必須とされてきた「マルチタスク」が、実際にはむしろ「生産性を損なう元凶」だったという研究が、脳科学やビジネス行動学などのさまざまな分野から出てきている。いま全米で話題となっているデボラ・ザック著『SINGLE TASK 一点集中術』では、ハーバード、スタンフォード、MITなどの近年の膨大な研究成果を背景に、シンプルでありながら効果が高い「シングルタスク」による集中術を紹介している。
同書の方法とは、いったいどんなものなのか?今回は本書から、仕事が遅い人の理由とその解決策を紹介する。
「周囲の環境」と「自分の思考」をコントロールする
『SINGLE TASK 一点集中術』で紹介する「シングルタスク」による一点集中術は、「周囲の環境」と「自分の思考」をコントロールする最良の方法だ(なお、一点集中術は、自分の「シングルタスク度」を知ることで最大の効果を発揮する。「シングルタスク度」の判定法は本書に収録)。
シングルタスクとは、たんなる行為を指すわけではない。自制心を発達させることでもある。
初対面の人と会い、名乗ってもらったにもかかわらず、すぐにその名前を忘れてしまったことはないだろうか?
その場合、相手が「ピーターです」と名乗ったときに、あなたは十中八九、まったくほかのことを考えていたのだ。
紹介されたばかりの相手や、会話を続けている相手の話に完全に集中できないのであれば、それは小脳がコントロール力を失っている証拠である。
私はこうした症状を「脳散漫症候群」と名づけた。
脳が散漫になる理由の1つは、人には1つの思考にじっくりと向きあうのを避けたがる性向があるということだ。
あなたは自分の「思考」「認知」「反応」を、つねに意識してコントロールしているだろうか? それとも外部の何かが変化すれば、自分の人生はどれほどよくなるだろうと漠然と想像し、脳を無駄づかいしているだろうか?
スムーズかつ優美に日々を送れるよう、注意を向ける対象を慎重に選んでいるだろうか? それとも無数の思考が同時に頭のなかを駆けめぐっていても、その状態を放置してしまっているだろうか?
シングルタスクを実践すれば、あなたは手綱を締めなおし、最優先の課題を明確にすることができる。