アテネ対スパルタの昔から存在する新旧大国のジレンマ
「アテネの台頭と、それがスパルタに与えた恐怖が、戦争を不可避にした」
トゥキディデスは、そのように結論づけた。台頭する新興国の夢とプライド、挑戦を受ける覇権国の恐怖と自信の揺らぎ、追う者と追われる者とのゼロ・サム心理こそが、均衡と安定の最大の敵だった、というのである。
アリソン教授は、新興国と覇権国の間のパワー・シフトがはらむこの深刻なジレンマを「トゥキディデスの罠」と名づける。
今、アメリカと中国との間で、覇権国と新興国との間の熾烈な覇権争奪の国際政治が再び、生まれつつある。
アリソン教授は、これこそが21世紀最大の「トゥキディデスの罠」である、と警告を発する。そして、本書を世に問うことで、両国の指導者に「トゥキディデスの罠」の恐ろしさを想起させ、破局的な事態にならないよう自制し、指導力を発揮するよう促すのである。
アリソン教授の「トゥキディデスの罠」は、ジョージ・ケナンの対ソ「封じ込め(政策)」やジョセフ・ナイ・ハーバード大学教授の「ソフト・パワー」、サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」などと同様、大きな理論である。そしてそれは、歴史の教訓を今の時代の政治指導者に学ばせるカウンセリングである「応用歴史学」ともいうべき分野の理論である。
*次回につづく