応用歴史学の金字塔であり、米国防・外交関係者の必読書!

『米中戦争前夜(原題:Destined for War)(グレアム・アリソン著、ダイヤモンド社、2018年)

 中国は眠らせておけ。目を覚ましたら、世界を震撼させるから――。
 ナポレオンがそう警告したのは、200年前のことだ。そして今、中国は目覚め、世界を揺るがし始めている。

 ところが多くのアメリカ人は、中国が農民中心の後進国から「史上最大のプレーヤー」に変身したことが、自分たちにとって何を意味するのか考えようとしない。そこで、「トゥキディデスの罠」について学ぶことを提案したい。(「はじめに」より)

 キーワードは「トゥキディデスの罠」――。

 覇権国と新興国の競争が構造的ストレスを生むと、通常ならやりすごせそうな事象をきっかけに破滅的な戦争がもたらされることを指します。古代ギリシャの歴史家トゥキディデスが、ペロポネソス戦争を観察し、新興国(アテネ)のがむしゃらな拡大が、優位を失いたくない覇権国(スパルタ)の不安を招き、戦争を不可避にしたと指摘したことに由来し、ハーバード大学ケネディ行政大学院初代学長も務めた政治学者のグレアム・アリソン教授はこの力学を「トゥキディデスの罠」と名付けました。

 そして、ハーバード大学で指導する「トゥキディデスの罠」プロジェクトで過去500年の歴史を調べ、新興国が覇権国の地位を脅かした16件のケースを分析していきます。事例には、15世紀末のポルトガル対スペイン、16世紀前半のフランス対ハプスブルク家、17世紀半ば以降のイギリス対オランダ、19世紀末と20世紀初めの日本対中国とロシア、20世紀初めのアメリカ対イギリス、20世紀半ばの日本対アメリカ、そして冷戦時代を通じてのソ連対アメリカ……などが含まれます。

 それらの事例を踏まえ、米中の場合も全面戦争になるときは一気にエスカレートして起こる、として以下5つのシナリオを挙げています。

1.海上での偶発的な衝突
2.台湾の独立
3.第三者の挑発
4.北朝鮮の崩壊
5.経済戦争から軍事戦争へ

 原著の刊行は2017年でしたが、世界のパワーバランスの変化が日本にどのような影響を与えうるか、考えてみるうえで今読み直しても多くの示唆を与えてくれます。

『米中戦争前夜』目次構成】

日本語版序文 「トゥキディデスの罠」と日本の針路(船橋洋一)
はじめに
序章
第I部 中国の台頭
第1章 世界史上最大のプレーヤー
第II部 歴史の教訓
第2章 新旧対立の原点:アテネ vs. スパルタ
第3章 500年間に起こった新旧戦争
第4章 第1次世界大戦の教訓:イギリス vs. ドイツ
第III部 嵐の予兆
第5章 中国は、かつてのアメリカと同じだ
第6章 習近平が率いる中国の野望
第7章 米中両国の共通点と相違点
第8章 戦争にいたる道程
第IV部 戦争はまだ回避できる
第9章 平和を維持した4例に見る12のヒント
第10章 米中、そして世界はどこへ向かうのか
結論
付録 「トゥキディデスの罠」16のケースファイル