当局の責務もまたとてつもなく大きい

 この事件で失われたものは何か、それはオリンパスという個別企業の企業価値だけでは決してないと考える。失われた最大のものは、東京のひいてはわが国の証券市場に対する世界の信認であろう。そう考えれば、信頼回復に向けて当局の果たすべき責務もまたとてつもなく大きいと考えざるを得ない。

 証券取引等監視委員会は、今後、オリンパスを金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載及び偽計取引等)容疑で刑事告発するか、課徴金納付を命じるよう金融庁に勧告するかの判断を迫られる。常識的に考えれば、告発ではないか。

 また、いくら社長が含まれていたとは言え、企業内部のごく一部の関係者だけが、他の誰にも知られることなく多額の損失を先送りしてきたとは、普通の頭では考えにくいものがある。企業ぐるみの犯罪ではなかったのかどうか、第三者委員会は社会に対して誰もが納得する明確な報告を行う責務があろう。

 加えて、監査法人は一体何をしていたのかという問いにも答える必要がある。警視庁は監査法人の不正の有無について捜査に乗り出したと伝えられているが、けだし、当然であろう。

 一部の株主は損害賠償請求訴訟を準備しているとみられる。ただし、わが国では、株主訴訟は決して容易ではない。それは、他の一般的な訴訟と同様に、挙証責任が株主にあるためである。しかし、個々の株主が大きな企業に対して証拠を集めるのは現実問題として並大抵のことではない。

 今回の事件を奇貨として、たとえば株主訴訟をもっと行いやすくする(≒企業の不祥事を抑制し、企業のコンプライアンス意識を高める)ために、訴訟について、米国で行われているような「ディスカバリー制度」(当事者の求めに応じて、企業に証拠の提出を義務づける仕組み)や「クラスアクション制度」(集団訴訟の1つの形態で、他の株主の委任状を個別に集めなくても、特定の株主が他の株主の分まで損害賠償を請求できる仕組み)などの導入を検討することも一案であろう。また、東証は当然のことではあるが、今回の事件の悪質性を審査し、上場継続の可否を判断しなければなるまい。

 野田首相は、オリンパスの損失隠しについて「不適切な会計処理があったことは誠に遺憾。厳格に対応することによって、日本の金融市場における信頼をぜひとも確保したい」と述べたが、問われているのは厳格な対応の「中身」である。事件の再発防止に向けて、世界や世間が「なるほど」と納得する具体的なレベルまで十分に落とし込んだ関係職位の厳正な対応を期待してやまない。

(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)