
日本製鉄は、米USスチール買収で、米国政府の意向に振り回されている。だが、米トランプ大統領に翻弄されているのは日鉄だけではない。トランプ関税で国内鉄鋼業界全体が深刻なダメージを受けているのだ。特集『関税地獄 逆境の日本企業』の本稿では、トランプ関税が国内鉄鋼業に及ぼす影響を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)
日本製鉄のUSスチール買収に光明?
米大統領に翻弄される鉄鋼業と自動車業界
米トランプ大統領に、日本の鉄鋼業が翻弄され続けている。
その最たる例が、国内鉄鋼最大手の日本製鉄による米USスチール買収劇だ。暗礁に乗り上げたかに見えた超巨額ディールに、一筋の光明が差し始めている。
今年1月、退任間近だったバイデン米大統領(当時)が、日鉄のUSスチール買収に中止命令を発した。それに対し、日鉄とUSスチールがバイデン氏や米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスなどを提訴したことで、多くの企業や団体を巻き込む泥仕合の様相を呈していた(USスチール買収を巡る訴訟については、特集『日本製鉄の蹉跌 鉄鋼 世界大乱戦』の#2『日本製鉄が「米大統領を提訴」で狙う形勢逆転シナリオ!労組や米鉄鋼大手が反対するUSスチール買収への訴訟戦略』参照)。
1月に就任したトランプ大統領も、日鉄によるUSスチールの子会社化に反対してきたが、ここに来て事態は急展開を迎えている。トランプ大統領が対米外国投資委員会(CFIUS)に対し、買収計画について安全保障上のリスクを再審査するように命じたのだ。再審査の結果次第では、バイデン前政権の決定が覆り、買収交渉が前進する可能性もある。
だが、トランプ大統領は再審査を命じた後も、USスチール買収に否定的な発言を続けており、先行きは依然として不透明だ。
予測不能なトランプ大統領の言動に振り回されているのは日鉄だけではない。国内2番手のJFEをはじめ、国内鉄鋼業界全体が「トランプ関税」で甚大な影響を受けている。詳細は次ページで述べるが、関税率アップの余波で、国内大手鉄鋼メーカーの高炉が停止に追い込まれる可能性すらあるのだ。
米国の通商政策は、日本の鉄鋼業にどんなダメージを与えるのか。
次ページでは、トランプ関税が国内鉄鋼業界に及ぼす影響を明らかにする。