それを見ていて、当時、米国系企業に勤めていたちきりんは、「もしも私がニューヨークで大事故に遭遇しても、NHKは安否を報道してくれないのね」と理解しました。「日本の金融機関に勤める、日本人社員の名前」、それが、世界で過去に例をみない大規模なテロ事件が勃発したとき、日本を代表するテレビ局が「今、報道すべき」と判断した情報だったのです。
圧倒的に分析的なBBC
CNNがパニック映像を興奮気味に放映し、NHKが日本企業に所属する日本人正社員名を読み上げ続けている間、BBCでは早々にテロの背景分析を行なう討論番組がはじまっていました。
丸テーブルを囲んで議論するのは、アラブ政治や国際関係に詳しい専門家や、アルカイダを含めた中東のテロ組織に詳しいジャーナリスト達です。議論には、テロを首謀した可能性がある具体的なグループ名やそのリーダー名もあげられ、さらには、米国がアフガニスタンで過去に行なってきたこと、ソビエト連邦が存在した時代のアフガニスタンの政治的な位置づけなど、詳細な背景解説がはじまっていました。
これはちきりんには大きな衝撃でした。イギリス人がBBCしか見ず、アメリカ人がCNNしか見ず、日本人がNHKしか見ないのであれば、それぞれの国の人に世界はまったく異なって見えるのだろうと思えたからです。私たちはひとつの大事件を目にして、こんなにも違う世界を見ているのだと感覚的に理解できたことは、そのときの私には、テロ事件と同じくらい衝撃的なことでした。
このときちきりんは、「世界の報道機関にはそれぞれのスタイルがあり、それらはこんなにも大きく異なっているのだ」と改めて認識したのです。