1937年に没したアドラーの考えを広め、年間ベストセラー(ビジネス書ジャンル)のトップ3に4年連続でランクインした『嫌われる勇気』。1937年に書かれた原著を漫画化し、やはり95万部と驚異的に売れている『漫画 君たちはどう生きるか』
なぜいま、これらの本が大ヒットしているのか?『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の共著者である岸見一郎氏と古賀史健氏、そして『漫画 君たちはどう生きるか』を含め3冊すべてで編集を担当した柿内芳文氏に、ベストセラーの本づくりの裏側を聞いた。(構成:田中裕子、撮影:山本純子)

原作をどう「再編集」するか

──『嫌われる勇気』『漫画 君たちはどう生きるか』はそれぞれ、アドラー心理学の教えと歴史的名著を現代に蘇らせた作品です。しかし古典は、ともすればとっつきづらく説教くさく感じることも少なくありません。現代の読者と古典をつなげた編集の工夫があれば教えてください。

古賀史健(こが・ふみたけ) ライター/編集者。1973年福岡生まれ。1998年出版社勤務を経てフリーに。現在、株式会社バトンズ代表。これまでに80冊以上の書籍で構成・ライティングを担当し、数多くのベストセラーを手掛ける。臨場感とリズム感あふれるインタビュー原稿にも定評があり、インタビュー集『16歳の教科書』シリーズは累計70万部を突破。20代の終わりに『アドラー心理学入門』(岸見一郎著)に大きな感銘を受け、10年越しで『嫌われる勇気』および『幸せになる勇気』の「勇気の二部作」を岸見氏と共著で刊行。単著に『20歳の自分に受けさせたい文章講義』がある。

古賀史健(以下、古賀) まず、本を開いたときの「入口」はかなり考えました。ただ「アドラーは世界の3大心理学者で……」といった説明から入ってもダメなんです。「お勉強」になってしまうと、その時点で読者は離れてしまいますから。情報が多く目移りされやすいなか、どうやって読者に「椅子に座ってもらうか」は大きな課題でした。
 そこで『嫌われる勇気』の本文は、青年の「では、あらためて質問します」というセリフから始めることにしました。この書き出しのイメージは「テレビのチャンネルつけたら、もうドラマが始まっていた」なんです。読者にとっては、なんの前置きもなく議論が始まっているわけですよね。「あらためて質問する」ということは、どうも自己紹介は済んでいるらしい、と。

柿内芳文(以下、柿内) 「こんにちは」から入ったら読みたくないですからね(笑)。「はじめまして、青年です」って。

岸見一郎(以下、岸見) もうひとつのイメージとして、読者ははじめ「立ち聞き」しているんですよね。激しい青年の声がひょいと耳に入ってきて、哲人との応酬がなんだかおもしろくて、いつの間にか自分も書斎の隅に座って議論に聞き入っていた……と。

古賀 そうですね。ただ、『嫌われる勇気』はアドラーや岸見先生の思想の枠さえはみ出なければ、舞台設定やキャラクター設定にいくらでも工夫をこらすことができました。一方で『漫画 君たちはどう生きるか』には、名著である原作がある。ここに編集のむずかしさがあったんじゃない?