激動の年、2017年。この1年で、数々の上手な伝え方に出会いました。シリーズ累計124万部突破のベストセラー『伝え方が9割』の著者、佐々木圭一氏が1年を通して出会った、すぐれた伝え方を発表いたします。
10位「このトロフィーを『ムーンライト』の友達に渡せるのは、すごく光栄なことだよ」
ジョーダン・ホロウィッツ氏(映画『ラ・ラ・ランド』プロデューサー)/ 第89回アカデミー賞
第89回アカデミー賞の授賞式での出来事です。作品賞に『ラ・ラ・ランド』の名前が読み上げられました。『ラ・ラ・ランド』のプロデューサーであるホロウィッツ氏がステージに立ち、スピーチを始めたところ、しばらくして受賞作が『ラ・ラ・ランド』ではなく『ムーンライト』だと発覚したのです。
普通であれば、動揺したり、落胆してしまうでしょう。
しかし、彼はとっさに、こう言ったのです。
「このトロフィーを『ムーンライト』の友達に渡せるのは、すごく光栄なことだよ」
そして、本来の受賞者である『ムーンライト』の製作者と固くハグを交わし、トロフィーを手渡しました。
『ラ・ラ・ランド』も非常に素晴らしい作品ですが、ホロウィッツ氏の人柄も、同じくらい素晴らしいということが伝わってきます。
9位「生まれたばかりのマイクロコンピューターの写真を見たわけですね。それを見て、涙があふれてきたんです。(略)両方の手と足の指がジーンとしびれて」
孫正義氏 / 特別対談イベント「未来を創る若者たちへ」(2017年2月10日)
※出典 ログミー
2016年12月、孫正義さんが未来を創る人材支援のために「孫正義育英財団」を設立し、若者に向けた特別対談イベント「未来を創る若者達へ」を開催されました。その対談の中で孫さんは、10代後半に経験した衝撃的な出来事について話されたそうです。当時留学中だった孫さんは、サイエンス雑誌に掲載されていた、指先に乗るマイクロプロセッサの写真を見たときに、「ついに人間、人類は、自分たち人類の頭脳を超えるものを自ら発明してしまった」と、とても感動したとのこと。そのときの感動を、学生たちに向けて、とても赤裸裸に語っています。
「生まれたばかりのマイクロコンピューターの写真を見たわけですね。それを見て、涙があふれてきたんです。(略)両方の手と足の指がジーンとしびれて。」
孫さんは、まさに天才なので、「伝え方の技術」というものなど考えずに、ありのまま感じたことを口にしたのだと思います。ただ、私をはじめ読者の方々の学びになるよう、伝え方の技術で解説するならば、これは「赤裸裸法」という技術。普段ならば口にしない、カラダのまわりに起こっていることを、あえてコトバにする方法です。非常に温かいコトバを作り出すことができるのです。聴いている人の耳にも残りますし、伝えた相手の心に「ぐっ」とくる伝え方でした。
8位「最強のヘボ軍団を目標に始まったチームが、『最高のヘボ軍団』になりました」
藤枝明誠高校 光岡孝監督/2017年 甲子園
※出典 nikkansports.com
藤枝明誠高校の野球部は、選手一人ひとりの能力がずば抜けて高くはなかったそうです。光岡監督は「お前らはヘボ軍団だ」と言ってきたそうです。一方で、監督の「最強のヘボ軍団になりなさい」という言葉に選手たちは鼓舞され、チーム一丸となり、練習を重ねてきました。その結果、静岡大会で初優勝という輝かしい成果を残し、いよいよ迎えた甲子園。…残念ながら、初戦で敗退してしまいました。戦いを終えたあと、選手たちへの頑張りをたたえる監督の言葉が、とても素敵でした。
「最強のヘボ軍団を目標に始まったチームが、『最高のヘボ軍団』になりました」
がんばってきた選手達に対して「よくがんばったね」と讃える言葉を言ったのではなく、「最高のヘボ軍団だ」と今まで一緒に頑張ってきたことを、たたえる、素敵な伝え方だと感じました。