厚生年金の支給開始年齢を68~70歳へ引き上げようとする民主党の提案は、大きな波紋を呼んだ。結局、法案提出は先送りされることになったが、国民の間に「日本の年金制度は危ないのではないか」という不安を再燃させるきっかけとなった。不安が増幅される背景には、国民の多くが複雑な年金制度の仕組みをよく理解していないこともある。そこで、2004年の年金改正において、「100年安心年金」と言われる現行の年金制度をつくり上げた坂口力・元厚生労働大臣に、当時の狙いを改めて聞いた。年金は本当に安心なのか。だとすれば、不安が広まる背景には何があるのだろうか。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 原英次郎・小尾拓也、撮影/宇佐見利明)

国民の声に応えようとしたのが
2004年年金改革のスタートだった

さかぐち・ちから/衆議院議員、公明党副代表、医師、医学博士。1934年生まれ。三重県出身。三重大学医学部卒、三重大学大学院医学研究科博士課程修了。1976年、第34回衆議院議員総選挙に出馬し、初当選。細川内閣で労働大臣、森内閣で厚生大臣兼労働大臣を歴任し、2001年小泉内閣で省庁再編後初の厚生労働大臣に就任。04年までの在任期間中に、年金改正などを主導する。
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――支給開始年齢の引き上げ議論をきっかけに、年金不安が再燃している。「100年安心」と言われる現行の年金制度が発足したのは、2004年の年金改正においてだが、この改革には賛否両論がある。当時厚生労働大臣として改正を主導した坂口議員は、その狙いをどう考えていたのか。

 当時、毎年のように年金制度が変わることに対して、国民は大きな不満を感じていた。こんなにコロコロ変わっては、将来どうなるかわからない。だから、持続可能な年金制度を早くつくって欲しいという声が上がった。その声に応えようとしたのが、年金改正のスタートだった。

 それにはまず、将来的に勤労者からどれくらい保険料を払い、高齢者への年金給付をどの程度にすれば制度を維持できるのかを、様々な指標を使ってシミュレートする必要があった。厚労省年金局に「とにかく、ずっと先まで計算できないか」と聞いたら、「できる」ということだったので、始めてもらった。

 もちろん、いくら綿密に計算しても、遠い将来はどうなるかわからない。ただ、踏まえるべきものは踏まえて、100年後まで今から計算しておきたいと思った。そして、その数字に対して、過去5年間の状況に狂いが生じていないか、マイナス要因はないかなどを計算して、5年ごとに微調整することを決めた。