東急沿線にはよい蕎麦屋が顔を並べている。その中で開店2年半でじわりと客の心を掴んだ店がある。それが「月心」だ。関西風の出汁でつくる温汁の「すだち蕎麦」は、亭主の技が光る。旬食材の持ち味を丁寧に引き出す蕎麦料理で和やかに宵を過ごしたい。

食の楽しみに満ちた小体な店
少々遠くてもついつい引き寄せられてしまう

 祐天寺の駅からゆっくりと10分ほど歩く。やがて住宅街に近くなるころに「月心」の瀟洒な門構えが見える。落ち着いた雰囲気の小体な蕎麦屋だが、食の楽しみに満ちた店だ。

祐天寺「月心」――すだち蕎麦で関西出汁と江戸蕎麦の組み合わせの妙を楽しむ「蕎や 月心」。祐天寺の駅から10分程度の瀟洒な造りの店だ。暖簾をくぐる期待度が膨らむ。

 2009年8月のオープン以来、「月心」は幅広い世代に愛されてきた。昨年の春頃から、蕎麦好きの間でよく名前が上がるようになり、ファンが増えていると聞いていた。

 近隣の上客は多少は遠くてもわざわざ出かけてくる。カフェバーと同じような感覚で女性グループで埋まる日もある。ビジネス組が大切な会食に便利にしている。二世代揃っての賑やかな日もある。

 月と地球の引力が働いた関係を自分らと客とになぞった「蕎や 月心」という屋号。名は体を表すと言うが、店内に入ると、その気持ちが覗けるようだ。

 店の大半を占める大テーブルは、厨房からつながるカウンタースタイルになっており、居心地がいい。入ってすぐ右側の角コーナーは4人席のテーブルになっていて、ここも落ち着いて会食ができるように配慮されている。その居心地のよい空間をさらに穏やかなものにする女将の丁寧な対応。手打ち蕎麦屋にありがちな敷居の高さを少しも感じさせないとの評判がある。

祐天寺「月心」――すだち蕎麦で関西出汁と江戸蕎麦の組み合わせの妙を楽しむ(写真左)カウンタースタイルの大テーブル。ふらりと1人できても居心地がいい。2人、4人で来ても対面で座れる。(写真右)ゆったりと会食できる4人席が隠れるように造られている。