
初めての妊娠・出産を迎える妊婦の心身を守るには、少なくとも4人の頼れる味方が必要らしい。
東京都医学総合研究所の研究者らは、都内の4自治体に住む429人の初産妊婦を対象に、初めて妊娠した妊婦を支える社会環境と産後うつとの関係を分析している。
対象者の年齢は平均29歳で、25歳以下の若年層は高卒未満の割合が26歳以上より高く、独居の割合も高かった。産後の調査では妊婦の26.4%に産後うつ症状が疑われている。
そこで産後のうつ症状と妊娠中の環境との関連を分析した結果、妊娠の初期から困ったときに頼れる人が4人以上いる場合は、産後のうつ症状が大きく軽減されることがわかったのだ。
詳しくみると、頼れる支援者が0~3人では、産後のうつ症状を大きく軽減する効果は認められなかったが、4人を超えた時点で、「つながり」の効果が最大限発揮され、以降は支え手の人数が増えるごとに産後のうつ症状が軽減されることが示された。
また25歳以下の若年層で、産後のうつ症状を大きく軽減するには少なくとも6人の支え手が必要であることがわかった。つまり若い妊婦ほど、より多くの「つながり」がなければ産後のメンタルヘルスを守ることが難しい可能性がある。
しかし、現実に必要な人数に守られていたのは26歳以上の54.8%、25歳以下の22.9%にすぎなかった。
研究者は「特に若い妊産婦において、妊娠時からの社会的なつながりが、産後うつ予防に重要だ」としている。
妊娠~出産期のメンタルヘルスの悪化の背後には、妊娠中に上昇し、出産後は一気に低下する性ホルモンの変化の影響が隠れている。加えて「良い母親」であれというプレッシャーやパートナーとの意識の差も孤立感を深めてしまうだろう。
産後のうつ症状は本人のみならず周囲にも影響を及ぼすことから、世界的にも社会問題化しており、米国では2023年に産後うつに特化した経口抗うつ剤が承認された。日本でも妊娠中に抗うつ剤を処方するケースが増えているが、薬よりも地域ぐるみで信頼できる「支え手」を増やす努力が必要なのかもしれない。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)