個人の感性が仕事をさらに面白くする
「公私混同」と「グッとくるかどうか」
篠田:ただ、個人が負う責任はよりシビアですよね。選手Aが活躍しなかったためにチームBが優勝できなかった、ということもあり得るわけですから。
林:僕らの仕事ではスポーツのような「勝ち負け」はないですが、サイトを盛り上げて行くために自分に何ができるか、は常に問われます。でも、自分なりの仕事のスタンスを選ぶことができるという自由があります。基本的に僕らが大切にしているのは、会社員としての安定よりも、やりたいことを仕事にする自由だったり、価値観や志を共有できる仲間ときちんと働くことなんですよね。自由や価値観の共有は、シビアさを超えます。ただそこで、単なる共感や自由だけではなく、きっちり稼ぐということも大事にしていますが。
出版社に勤務後、2005年に東京糸井重里事務所に入社。読み物チームに在籍し、コンテンツでは『東北の仕事論』『21世紀の「仕事!」論。』、書籍『はたらきたい。』の編集など、「はたらく」や「仕事論」系を担当している。
ほぼ日・奥野:それは、ほぼ日でも当てはまることがありますね。ほぼ日では、「楽しくたって仕事はできる」とか「公私混同」という言葉がよく使われています。
林:公私混同?
篠田:例えば、1人の社員が、あるイラストレーターに個人として興味を持ち、展覧会に足を運び、その方と話をして交流がはじまる。そのうちに、切り口を見つけて、そのイラストレーターのことをほぼ日のコンテンツにできるかもしれないと感じる。するとそれを社内のミーティングで提案していくわけです。そのプロセスは、どこまでがプライベートでどこからが仕事かということは境目がつけられないし、無理につけることには意味はないですよね。
「私(わたくし)」として感動したり違和感をおぼえたこと、心の動きを起点にしながらも、友達同士の会話のような顔見知りの範囲ではなく、多くの人に喜んでもらえるように深掘りする。そういう仕事の仕方が公私混同、あるいは楽しくたって仕事はできる、楽しいことこそ仕事だろうという考え方の根底にあると思います。
株式会社スピーク共同代表/「東京R不動産」ディレクター。株式会社スペースデザインを経て独立。「東京R不動産」の運営・展開のリーダーシップをとるとともに、建築・デザイン・不動産・マーケティング等を包括的に扱うディレクターとして多くのプロジェクトを推進している。
東京R不動産・吉里:公私混同というのは、自然なモチベーションですよね。東京R不動産でも、基本的に僕ら自身が感覚的に「グッとくるか」どうかを基準に物件を紹介しています。いいと思う人がたくさんいなくても構わない。価値観は違えど方向性はズレていないメンバーだから、そのメンバーが好きなものだけを、わかる人に面白く、真摯に届ける。
フリーエージェントって、結局「やりたい仕事をして生きる」ための1つのあり方なんですよ。ほぼ日さんで言うところの「楽しくたって働ける」と同じで、「私」のプライベートな感性がいつか「公」のほぼ日という仕事に還元されていくわけです。僕らの場合、それが会社組織ではないけど、自分たちの「グッとくる」感性が、もっと楽しく生き生きした街や空間づくりに還元されていく。そういう点で共通点を感じますね。