共通項があっても人それぞれの状況はまったく異なる

 被災地では、全員が地震による災害に遭遇したという共通点があります。

 共通点があるなかでの比較から生じる「小さな違い」のほうが、より複雑な問題になることが多いようです。たとえば、企業で働く女性を例に取りましょう。

 職場で働く女性という共通項はあるものの、「結婚して子どもがいる女性」と「シングルの女性」の間には、埋めがたい溝が横たわることがあります。

 子どもがいる女性は、育児をしながら働いている自分はたいへんだと思っています。一方のシングルの女性は、子どもがいる女性が定時に帰ってしまうので、その分の仕事を押し付けられて自分のほうがたいへんだと思ってしまいます。

 外から見ると働く女性としてひとくくりにされてしまいがちですが、両者の間にある温度差は目に見えないだけに深刻だという報告も出されています。

 同じようなことは、不妊治療のために通院する女性にも言えます。不妊外来には不妊症に悩む女性が来ているのだから、同じ悩みを抱える者同士が和気あいあいとしていると見られがちです。

 それは必ずしも事実ではありません。「治療の結果妊娠した人」と「治療をしてもまだ妊娠していない人」の間に生じる違いもあれば、「子どもが1人もいない人」と「2人目にチャレンジしている人」との違いもあるのです。

 こうした違いにナーバスになり、何とも言いようのない冷たい空気が流れているばかりか、直接対面しないインターネットの掲示板では攻撃し合うこともあるといいます。

 被災者、職場の女性問題、不妊に悩む女性すべてに言えることですが、お互いがまったく理解し合っていないわけではありません。それぞれが共感し合い、抱えるたいへんな状況にエールを送る場合も多いものです。

 ただ、同じ状況だから悩みを共有して仲良くやれるというほど、単純にはいかないものです。むしろ、人間は同じ状況だからこそ「小さな違い」を敏感に感じ取り、それに苦しんでしまうことがあるのです。