バランス接続特集

 前々回はヘッドフォン、前回はイヤフォンのおススメ製品を紹介してきた本特集。今回は少しハードルを上げて、ヘッドフォン/イヤフォンのバランス接続について紹介したい。

 基本的にはオーディオプレーヤーとの接続となり、オーディオに多少詳しい方なら知っている接続方法だが、その効果は大きいので、ミドルクラスやそれ以上の価格帯のモデルへのグレードアップを考える人ならば、ぜひとも挑戦してみてほしい。

左右の音を完全分離するバランス接続

ポタアン特集
通常(アンバランス接続)のイメージ
ポタアン特集
バランス接続のイメージ

 バランス接続とは、ヘッドフォンと音楽プレーヤーを接続する方法のひとつで、基本的には左右のプラス、マイナスをそれぞれ独立させた4本の信号線で接続するもの。

 一般的なヘッドフォン端子の接続(アンバランス接続)は、左右それぞれのプラスと左右まとめて1本のマイナス(グランド)の合計3本で伝送している。

 マイナス側の信号線が左右で共用となっているため、信号が少し混ざってしまう「クロストーク」が発生する。これによりステレオ感が乏しくなってしまう可能性がある。

 一方、バランス接続は左右の信号が完全に独立するので、クロストークの発生が抑えられ、より豊かなステレオ感が再現できるというわけだ。

 また、バランス接続に対応したヘッドフォンアンプや音楽プレーヤーのヘッドフォン出力側では、左右それぞれ1個のアンプ(合計2個)で信号を増幅するのではなく、左右それぞれプラス/マイナス用にアンプを使い、合計4個のアンプで信号を増幅するので、アンプの負担が少なく、より正確でパワフルな再生が可能になるメリットもある。

 このため、バランス接続に対応するには、ヘッドフォンアンプやプレーヤー側では必要なアンプが2個から4個となっている。

 ヘッドフォン側も左右のドライバーユニットに4本の信号線で配線する必要がある。つまり、バランス接続をするには、対応したヘッドフォンや再生用のプレーヤー、あるいはバランス接続対応のヘッドフォンアンプが必要になる。

 そのため、もともと高級機での装備だったのだが、今では比較的身近な価格のモデルでもバランス接続に対応した製品が登場してきている。

バランス接続用コード/コネクター形状には
いくつか種類がある

ソニー
ソニー「ウォークマン NW-ZX300」はバランス接続に対応。右の端子にバランスヘッドフォンを装着する。端子は4.4mm/5極

 気をつけなければいけないのが、バランス接続用コードや接続端子について。実はメーカーによって採用している接続端子にいくつかの種類があり、バランス接続対応モデルでも、採用する端子形状によっては接続できない場合がある。

 今回は特にポータブルオーディオ機器を中心に紹介するが、3.5mmのステレオミニ端子に対し、バランス接続端子は2.5mm/4極と4.4mm/5極などがある。

 このほかにも3.5mm×2本というようなものもあったが現在採用されることはあまりない。現在のところ、2.5mm/4極と4.4mm/5極の2つの方式があり、残念ながらそれぞれに互換性はない。

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左から、3.5mmステレオミニ端子、4.4mm端子、2.5mm端子。それぞれ形状が異なるので、対応する接続コードを用意する必要がある。写真はヘッドフォンブランドの「DITA」が採用しているAwesomeコネクター。端子部分を交換可能だ

 製品の選び方としては、音楽プレーヤーが採用するバランス接続端子に合わせて、ヘッドフォン/イヤフォンを選ぶようにするのがスムーズだ。

 ヘッドフォンは、3.5mmのステレオミニとバランス接続用の端子の最低2種類に対応する必要があるので、接続コードを着脱式にしているものが多い。接続コードを使い分けて、さまざまなバランス接続端子に対応するわけだ。

 ヘッドフォンの接続コードは、そのメーカーがオプションとして用意しているものを選ぶことになるので、2.5mmしか接続コードが用意されていなかったり、その逆で4.4mmしかなない場合もある。

 そのため、使いたいプレーヤーとヘッドフォンがきちんとバランス接続できるかどうかは、購入前によく確認する必要がある。

 心配な場合は、同じメーカーのプレーヤーとヘッドフォン(いずれもバランス接続対応のもの)を選べば、接続コードのことで悩む心配はほとんどなくなる。

 ヘッドフォン用の接続コードは、ケーブルメーカーなどがアクセサリーとして発売しているものもあり、メーカーでは対応していないコネクターを持ったものも見つかる場合がある。

 また、自由にコネクターを選んで自作することも可能だが、難易度は高くなるので、バランス接続を試すのが初めての人にはおすすめしない。

 このあたりが少々面倒なのだが、そのあたりのハードルをのり越えて試す価値は十分にある。

4万円ちょいで実現
パイオニア「XDP-20」と「SE-CH5BL」でバランス接続を試す

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パイオニアのハイレゾプレーヤー「XDP-20」とイヤフォン「SE-CH5BL」でバランス接続

 では、実際にバランス接続を試してみよう。

 パイオニアでは、バランス接続を手軽に体験できるように、エントリークラスのハイレゾ対応プレーヤーと、インナーイヤー型のイヤフォンを投入している。

 プレーヤーは「XDP-20」(実売価格 3万6000円前後)で、イヤフォンは「SE-CH5BL」(同 6500円前後)。合計で約4万円ちょっとの構成だ。

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SE-CH5BLのイヤフォン部分。コンパクトなカナル型で、接続コードはタッチノイズが目立ちにくいツイストケーブルを採用している
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プレーヤーなどと接続する端子は2.5mmのバランス接続用となっている
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SE-CH5BLのハウジングからイヤーチップをはずしたところ。音道管はわりと大きめで、奥に9.7mmドライバーがある

 SE-CH5BLは、9.7mmドライバーを搭載したカナル型のモデルで、接続コードを2.5mmのバランス接続用端子としたモデル。接続コードの交換はできないので、一般的なヘッドフォン端子を持つプレーヤーとは接続できないので注意しよう。

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XDP-20の外観。タッチパネル採用のため、操作ボタンなどは側面にしかなく、すっきりとしたデザインだ

 XDP-20はDSD音源やMQA音源を含めた豊富なハイレゾ音源の再生に対応したプレーヤーで、2.4型のタッチパネルを採用している。

 内蔵メモリーは16GBだが、microSDカードスロットを2つ備え、それぞれ最大256GBのメモリーを増設可能。Wi-Fi(IEEE 802.11a/b/g/n)内蔵で、Bluetoothにも対応。

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左側面。再生用ボタンのほか、microSDカードスロットが2つ備わっている
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右側面には音量調整のボタンがある
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XDP-20の上面。電源ボタンと2つのヘッドフォン出力端子がある。一番右がバランス端子だ
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底面にはデータ転送/充電用のmicroUSB端子がある

 ハイレゾ音源などの再生だけでなく、radiko.jpなどのインターネットラジオにも対応するなど機能も十分だ。

 DACチップを左右独立で搭載するほか、デジタル信号処理では44.1kHz系と48kHz系の2つのクロックを備え、音源のサンプリング周波数に合わせて使い分けるなど、音質的にもしっかりと作られたモデルだ。

 このモデルの組み合わせならば、難しいことを考えずにバランス接続を体験できる。バランス接続を体験するにはちょうどいいモデルなのだ。

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バランス接続は画面の表示で確認できる。左がアクティブな状態で右はアンバランス接続の場合の表示
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ホームメニューや設定で接続方法(バランスまたはACG)を切り替えられる

 接続は実に簡単で、プレーヤーのバランス端子に対応イヤフォンを差すだけでいい。

 バランス接続/アンバランス接続の切り替えはオーディオ設定などでもできるが、ヘッドフォンの接続コードを接続すれば、接続した方に合わせて自動的に切り替わる。

 このため切替を忘れて音が出ないといったことはないので安心して使える。

バランス接続にすると、音場が広がり空間の再現も明瞭に

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SE-CH5BLの接続イメージ。コードを耳に引っかけるタイプの装着方法となっている

 まずはXDP-20をステレオミニ端子で接続して、一般的なアンバランス接続で聴いてみたが、音の情報量も十分に豊かで、低音域の力感も含めてなかなかよくできていると感じた。

 音質的には中低域が充実した力強い鳴り方をするタイプだが、パワー重視のバランスというわけでなく、しっとりとしたバラードや落ち着いた室内楽などを聴いても不自然さのない気持ちのよい音を楽しめるバランスになっている。

 続いて、SE-CH5BLを使ってバランス接続で聴いてみた。バランス接続モードでは、一般的なバランス接続(BTL駆動)と「ACG(アクティブコントロールGND)駆動」を選択できるが、ここではまず、BTL駆動としている。

 アンバランス接続でもなかなかできのよい音だと思ったが、バランス接続にすると音場が豊かに広がり、ボーカルの定位もしっかりと出る。

 まさにステージ感や空間の再現が明瞭に感じられる音になる。エントリークラスのプレーヤーとしてはかなりのレベルの音だと感じる。

 ステージが広く、音の粒立ちも良好になるなど、情報量が豊かに出る再現だが、音が漠然と広がってしまうのではなく、個々の音のエネルギー感もしっかりとしているので、音が薄まった感じにならず、前後の奥行き感も含めて立体的な音になる。

 続いて「ACG(アクティブコントロールGND)駆動」も試してみた。これは、左右の信号をそれぞれ2個のアンプでプラスとマイナスを独立して増幅するのではなく、左右それぞれ1個のアンプでグランド電流の制御に使う方法。グランド電流を安定化することにより、より自然な再生が可能になる方式だ。

 こちらで聴くと、音の広がりや個々の音のパワー感はやや控えめに感じるが、音の定位が実に自然になり、実体感のある生々しい再現になる。アコースティックな楽器の演奏では、ボーカルと楽器の位置関係が明瞭になるなど、臨場感が豊かだ。

 音のステージの雄大さやパワフルさではBTL駆動が好ましいし、ライブ的な臨場感や音の自然さをを重視するならACG駆動が好ましい。

 曲や好みによって使い分ければいいものだが、バランス接続のさまざまな楽しみ方をエントリークラスでもしっかりと楽しめるのはうれしいだろう。

音質にこだわる人ならぜひとも体験してほしい

 バランス接続は接続端子の問題など、少々マニアックな面もあるが、ヘッドフォンでの再生を高音質で楽しむには有効なもの。

 これがいよいよ身近な価格のモデルでも楽しめるようになってきた。これまでは比較的高価なモデルだけの楽しみだったので、音が良くなって当然とも思われがちだったが、こうした価格帯のモデルで試すと、安価なモデルだと「1クラス上の音に化ける!」と言いたくなるくらいに音の再現力が向上する。

 残念ながら、スマートフォンではオンキヨーの「GRANBEAT」シリーズぐらいしかバランス接続に対応した製品が思いつかないが、ヘッドフォンのグレードアップに合わせて、再生プレーヤーもスマホから専用の音楽プレーヤーを試してみようというならば、ぜひともバランス接続を検討してほしい。