統合プロセスを駆動するのは「ストーリー」

 イノベーションを生み出すためには、多様性がカギになる、と言われて久しい。日本でも「ダイバーシティ」といった言葉がよく使われるようになった。

 確かに、アイデアを生むために多様性は大切である。さまざまな異文化を許容するカルチャーや、組織の壁を取り払った議論も必要だ。本書でも、多彩な人材のリアクションを活用して顧客価値を生み出すための「ウォータリング・ホール」という場づくりが提案されている。

 ところが、最近の日本企業では「ダイバーシティ」のかけ声のもと、多様性を大きくすること自体が自己目的化してしまうことが少なくない。多様性を確保できればイノベーションが出てくるというような安直な誤解があるように思う。

 注意すべきは「多様性のワナ」に陥らないことだ。イノベーションのカギを握るのは多様性ではない。そのあとにくる「統合」にこそ、イノベーション・マネジメントの本質がある。

 本書で著者は「創造性には2種類ある。ゼロから1を創り出すものと、1から1000を創り出すものだ」という日本の西和彦の言葉を引用して、イノベーションというのは後者の創造性である、と指摘している。世界を変える可能性を持つアイデアを見つけるのはそれほど難しいことではない。イノベーションが困難な真の理由は「1から1000を創り出す」プロセスを動かすのが難しいからである。

 多くの有能な人材が、アイデアの創出を受けて市場化し、市場で成果を出すまで何年もの時間をかけて助け合いながら働かなければならない。著者は「イノベーションは共同作業以外の何ものでもない」と断言する。ランダムに生まれるアイデアを、市場での具体的な成果に向けて「統合」することこそが、イノベーションに突きつけられた課題なのである。

 


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日  時|2012年4月13日(金)13:30~17:00
定  員|150名(定員になり次第締め切らせていただきます)
会  場|社団法人 日本マーケティング協会 アカデミーホール(東京都港区六本木3-5-27 六本木YAMADAビル9F)
申込方法|JMAホームページよりお申込下さい。

●お問い合わせ先:(社)日本マーケティング協会 研究開発部 (担当:渡辺 jma01@jma-jp.org)
●詳しくは、こちらから。