本書では、SRIが長年かけてイノベーションの実現に取り組み、プロセスから練り上げられた「5つの原則」が多くの事例とともにまとめられている。
① 顧客と市場にとって重要なニーズに取り組む
② 有用なツールを活用し、顧客価値を迅速に生み出す
③ イノベーションを率いる「チャンピオン」となって、価値創出プロセスを推進する
④ 多様な分野の専門家を集めた混成チームによって、天才に負けない集合知を実現する
⑤ チームの方向性を定め、価値の高いイノベーションを体系的に生み出す
目新しさはない。この手の本によくあるような「すぐに使える」テンプレートや分析フレームワークが出てくるわけでもない。
しかし、じっくり読んでいくと実に迫力、説得力がある。
「たたき上げ」を感じさせるのは、テンプレートの代わりに、やたらと具体的なエピソードや固有名詞が出てくるところである。本書の主張の骨格は、第1章で出てくるフランク・グァルニエリという人物のエピソードで生き生きと説明されている。単なる事例の記述やその一般化ではなく、イノベーションのプロセスを実際に駆動していく人間の気持ちが描かれている。概念の奇抜さではなく、実践に向けて読者を突き動かす力が本書の白眉である。