「野田さんにもっと詳しく聞いてみたら。あなた親しいんでしょ」
「単なる先輩だ」
「あなたになら、なんでも教えてくれるんじゃないの」
「やめてくれよ。そんなことを言いだすのは」
「ホテルの名前くらいは分からないの」
「名前を調べてどうするんだ」
優美子は黙ってしまった。
しょせん、無理な話だ。財務省のキャリアにスパイまがいのことが出来るはずがない。
それも女性だ。森嶋自身、どうすればいいか分からない。
そのとき、ドアが開いて村津と遠山が入ってきた。2人に続いて30代の男も一緒だ。どこかで見たことがあるが、森嶋は思い出せなかった。
村津は入口で立ち止まり、部屋の中を見ている。
やがて、ゆっくりとホワイトボードの前に立った。
「驚いたね。1人も抜けてない。きみたちはよほど先見の明があるのか、よほどのバカなのか。さほど遠くない日に分かると思うがね」
村津は遠山の横に立っている男を呼んだ。
「民友党衆議院議員の植田俊充氏だ。今後、会議に参加させてほしいと国交大臣から連絡があった」
植田がチームに向かって頭を下げたとき、森嶋と目が合った。
森嶋は、アメリカ時代にワシントンの大使館のパーティーで会ったのを思い出した。派手ではないが、どことなく人目を引く雰囲気を持っている。
政治家に必要な華というやつだろう。
その日は、日米二つのレポートと前の首都機能移転室の資料についての質疑応答があった。
チームのメンバーが、村津と遠山に質問するという形式で行われた。
2人ともよく勉強していた。森嶋たちの質問に、息の合った応答をして、スムーズに進んだ。
そして午後には、さらなる資料が渡された。数日後には実際の組織編成が組まれることが告げられた。
(つづく)
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