「誰に聞いたんです。そんな話」
「長野に引き籠っていた村津真一郎が国交省に呼び戻され、各省庁の若手が集められた。それも半分以上がキャリア。他に何をやるって言うの」
森嶋は返事に詰まった。理沙から視線を外し、適当な言葉を探した。
「当たってるのね。それで、なぜ今さら首都移転なのよ」
「そんなこと言ってませんよ。勝手なこと言わないでください」
「あなたはウソを付けないのよ。だから、次官にはなれない」
「きつい言葉ですね」
「あれだけの人材を、しかも省を超えて短期間で集めるということは、総理直々の指示ね」
理沙は森嶋を見つめ、独り言のようにしゃべっている。しかし、内容は間違いない。
「あなたが参加しているということは、ハドソン国務長官の来日と関係があるのね。アメリカの圧力があった。そうなんでしょ」
「勝手に解釈しないでください。僕は何も言ってませんよ」
「言ってる。顔とその慌てようでね。あなたはウソがつけないって言ったでしょ」
森嶋は理彩から視線を外した。
「ハドソン国務長官が首都移転を日本政府に要請したの。これが事実なら大問題よ。内政干渉もいいところ。なぜ日本はアメリカにそこまで言われなきゃならないの」
「僕はなにも知らないって言ったでしょ」
「例のレポートの信憑性が高まったのね。根拠は何なの」
「帰ります。トイレに行きたくなった」
森嶋は立ち上がった。これ以上いると何を言われるか分からない。
「トイレならここにもあるわよ」
「家じゃないと落ち着かないんです」
森嶋は椅子から下りながら言った。