終身雇用が機能しなくなったいま、私たちはどう「働く」べきなのか。多くのビジネスパーソンが次の「モデル」を模索し、話を聞きたがる二人がいる。一人は、グーグル、マッキンゼー、リクルート、楽天など12回の転職を重ね、先日『どこでも誰とでも働ける』を出版し話題を呼ぶなど最先端の働き方を実践するIT批評家の尾原和啓氏。もう一人は、多くの著作を通じて日本人の働き方をアップデートしようとし続けるピョートル・フェリクス・グジバチ氏。ピョートル氏は、「会議」こそが日本人の働き方を変えるカギだと、最新刊『グーグル、モルガン・スタンレーで学んだ日本人の知らない会議の鉄則​』(ともにダイヤモンド社)で主張した。互いに「盟友」だと言う二人が、会議術を軸にして、「これからの働き方」を語る対談、後編。前編はこちらから。(構成:大矢幸世)

会議室の外でしか本音を言わない日本人

ピョートル ここからは、会議の「行動原則」を考えていきましょう。まず「Disagree, but commit(賛成せずともコミットする)」。

これは、Intelから出てきた考え方なんですけど、グーグルも同様の行動原則で働いています。よくあるじゃないですか。飲み屋に行くと、サラリーマンのみなさんが、「うちの連中はさ」とか、「とりあえず会議では支持してたけど、絶対うまくいくはずがない」と愚痴っている。そんなの、会議の場で反論すればいい。でも、日本人は遠慮しちゃってるんですね。だから僕は、グーグルの「『感情レベルの葛藤』を減らし、『アイデアレベルの葛藤』を増やす」という考え方が多くの日本人に必要だと思うんですよね。感情をぶつけ合わずに、アイデアをぶつからせよう、という。

ピョートル・フェリクス・グジバチ
プロノイアグループ株式会社 代表取締役 / モティファイ株式会社 取締役 チーフサイエンティスト
ポーランド生まれ。2000年に来日しベルリッツ、モルガン・スタンレーGoogleを経て、2015年独立して現職。『0秒リーダーシップ』『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのかグーグルの個人・チームで成果を上げる方法』『New Elite』『Google流 疲れない働き方』著者。

尾原 本当にこの「『感情レベルの葛藤』を減らし、『アイデアレベルの葛藤』を増やす」という原則は素晴らしいよね。だって、経営は50 / 50どちらが勝つかわからない選択肢を選ぶからこそ、勝てる可能性が出てくるわけ。「アイデアレベルの葛藤」では当然、Aを支持する人とBを支持する人が半々という状況は多々ある。それでBだと思っていた連中も「船に乗るんだったら最後まで乗ってやろうよ」と腹をくくるのがつまり、「Disagree, but commit」ということなんです。

ピョートル たとえば、社員旅行でその人が「北海道の雪祭りが見たい」と思ってたら、いつのまにか沖縄に来てしまった。そうなったとき、「最悪! なんで沖縄?」と思うか、「暖かいし海もあるし、みんなで遊ぼう!」と思えるか。どこかのタイミングで切り替えられるようにするのはとても重要なんです。

尾原 わかりやすいたとえだね。結局、沖縄で楽しめばみんなで仲良くなるし、いいこといっぱいあるかもしれないんだから。

「言葉選び」ひとつで会議は変わる

ピョートル そしてもう一つ。「『建設的な言葉』を選ぶ」ということ。

尾原 これは本当に大事。

ピョートル 大事ですね。どんなに厳しいことでも、「伝える」という前提で伝えなければならないことがあるんです。そんなときに伝える方法が「『建設的な言葉』を選ぶ」ということなんです。仕事に限らず、プライベートでも家族でも、言わないと伝わらないじゃないですか。

尾原 「建設的な言葉」の例を挙げてみましょうか。会議の際はみんなで「振り返り」を行う、というのが僕の中での鉄則なんですよね。それでよく、「良かったことと悪かったことを挙げる」という振り返りパターンがあるけど、これはちょっと建設的な言葉ではないんです。僕がその代わりに使うのは、「良かったことと改善すべきことを挙げる」という言葉なんです。「悪かった」というと不平が出るけど、「改善すべきこと」と言った途端に、ただの悪口から「課題」になって、それに対する「チャレンジ」が見えてくる。ただ問題点を挙げるだけでなく、どう改善すればいいのか、というアイデアとセットで出てくるから、とても建設的な議論になるんです。

言葉の伝え方をほんのちょっと工夫するだけでネガティブなものもポジティブになるし、「ただのクレーム」が「アクショナブル(実行できる)なこと」になる。本当に些細なことなんだけど、すごく重要です。

ピョートル 言葉の選び方ひとつで、状況は変わるんですよね。

尾原 そういえば、ちょうど先日、ある大学で講演をしたんですけど、「どうすれば熱く生きられますか」とか「どうすれば自分の好きなことを見つけられるんでしょうか」みたいな質問ばかりだったから、僕、キレちゃったんですね(笑)。だって、そこにいるのは「大学= University」にいる人たちなんですよ! 「university」の語源には「uni(単一の、ひとつになる)verse(詩、韻文)ity(こと)」という意味があるんです。なぜ人は生きるのか、何のために道を歩むのか、というverseがひとつに凝縮されて、「universe(森羅万象)」になる。だから大学って本来、その道に没入した先生たちが集まる場であり、学生もまた自由な4年間の中で自分の「verse」に出会って、自分の道を突き進んでいく場であるはず。なのに……なんで?って。

ピョートルさんはこの本で、会議に必要なのは「葛藤のマネジメント」だと言った。つまり、会議には自分の「verse」を持った人たちが集まり、絡みあって、ときにはぶつかることもあるけど、最後には螺旋になって、糸になって何かを紡ぐ、ということ。そんな会議こそが本当に意味のある会議だと思うんです。

イノベーションが生まれる条件は「恋愛」に似ている

尾原 ちょっと熱くなっちゃったけど、そういやまだ心理的安全性についてあまり語れてなかったよね。

ピョートル そうでした。尾原さんはチームの心理的安全性を高めるにはどうすればいいと思いますか?

尾原 単純に2つ。まずは、お互いを知り合うこと。それは、「飲みニケーション」というより、相手の人生や生き方、好き嫌い、価値観を知り合う、ということ。そしてもう一つは、やっぱり何回失敗しても、みんなが笑顔で受けとめてくれる、ここは失敗しても大丈夫な空間なんだ、ということを認識してもらえるように工夫することです。

ピョートル 僕が付け加えるなら、お互いの違いと共通点を見つける、ということですね。たとえば、尾原さんに「そのスカーフってなんですか?」とか、ピョートルに「いつも同じような黒いシャツなのはなぜですか?」みたいな質問だと、なかなか距離感は埋まらない。でも、僕らふたり、日本とポーランドという国籍の違いもあるし、何をやっているのか、どこに住んでいるのかも違うし、考え方も違う。もちろん、共通点もあります。その違いと共通点について、自分の頭で整理して、コミュニケーションの中で建設的に活用していく、ということが大事だと思います。

尾原 やっぱり「違う」って、相手のことが理解できないということだから、「怖い」になりやすいんです。そうすると、「迂闊なこと」ができなくなってしまう。でも、「違う」ってことは、「新しいことを知れるから楽しい」とか、「違うからこそコラボレーションできるから楽しい」というふうに価値観を変えられると、イノベーションが生まれるようになる。

ピョートル 恋愛とかはまさにそうですよね。自分に似てるところを見つけて好きになることもあるけど、「自分とは違うからこそ惹かれる」というのもある。

尾原 そうそう! とはいえ、相違点から好きになれる人も少ないだろうから、恋愛と同じように、「趣味が一緒」とか「考え方が似てる」というところからはじめて、だんだん絆ができたら「違うからこそ楽しいよね」に変わっていくんじゃないかな。

「怒り」が自分の価値観を知るためのヒントになる

ピョートル 先ほど尾原さんがお話しされた通り、本音も言わず黙々とインフラをつくって日本は先進国になった。けれども次の時代へ向かうには、パラダイムシフトが必要なんです。

そのためには、日本人の「自己認識を高める」ことが重要だと思います。学校で幼い頃から「何を大切にしているのか」「何を正しいと思っているのか」「世界へもたらしたい価値、世界から得たい価値は何か」と問われたことのある人は、どれほどいるのでしょう。だから、日本人は「価値観」と言われても、「ふーん?」みたいな顔をするんです。でも何か自分の価値観に気づくヒントがあるとすれば、「怒り」なんですよ。たとえば、いきなり「門限は午後5時!」と決められて、めちゃくちゃ腹が立ったら、それは自分が「自由」を価値観として重視している、ということ。自分が大切にしている何かを失ったり、脅やかされたりしたとき、「キャー!」となるのが、価値観を見つけた瞬間だということです。

尾原 自分が大事にしてるものを傷つけられたり縛られたりすると、エネルギーが生まれるんだよね。つまり、価値観は相手を傷つけるかもしれない刃物であり、自分のモチベーションにもなる、ということ。

なぜ僕は「どこでも誰とでも働ける」んだろうと考えてみると、自分の価値観が、「人と異なっていることを大切にしている」から。他の誰かが大事にしているものは、僕にとってそんなに価値がないもの。だから、いくらでも誰かに譲れるんです。

で、僕が何を大切にしているのかというと、ストレングスファインダーでいちばん上にくるのが「着想」で、その次が「コミュニケーション」。つまり、新しいアイデアに出会い、そのアイデアをコミュニケーションの中で育み、さらに新しいアイデアが生まれることで、また別のコミュニケーションが生まれる。それが僕の最大の価値観であり、最大の報酬なんです。そうやって、それぞれの価値観があって、お互いにその価値観に気づけると、ここは譲って、ここは分担して……というのが、自然とできるようになる。これは「どこでも誰とでも働ける」ようになるためのいい秘訣です(笑)

ピョートル そうですよね。価値観でいうと、僕の本を読んだ方にはわかると思いますが、僕は11歳上の兄を失ってるんです。共産主義の小さな村で生まれ育って、何も考えずにインフラに従って働けば、暮らしていくことができた。でも、共産主義が崩壊して職を失って、「人生には意味なんてない」と、事故であっけなく逝ってしまった。未だにそのときの怒りが残ってるんですよね。僕も10代だったし、アルコール依存で前後不覚に陥っている兄に対して、「死ねばいい」と口走ったこともあった。その悲しみは治らないんです。でもそれで自分の価値観がクリアになった。「人生には意味がある」と、一人ひとりが思えるような世界をつくっていく。それ以外のことはやらないんです。

尾原 それって、英語でいうところの「Causality」ですね。

ピョートル 因果関係?

尾原 因果応報、なのかな。今の自分にたどり着くまでには何か原因があって、でもその原因があるから自分が自分でいられる。過去の悲しかったこと、辛かったことも含めて自分があって、その悲しみや辛さを分かち合うことで他の誰かを救うのであれば、それはそれで報われることになる。それが本来の「因果応報」だと思います。

ピョートル ちょっとしんみりしちゃったけど、人っていつ死ぬかわからない。死ぬ前提で動けば、人生が変わるんです。会議のやり方だって、180パーセント変わりますよ。せっかく会議に来て、何も発言することができないのなら、出席する意味ある? ないでしょう? それなら違う会議に出るよ、じゃあね!っていうこと。

尾原 日本の最大の不幸は、「死なないのが当たり前」になっちゃってることなのかもしれないね。ちょうどこないだイスラエルに行ってきたけど、それこそつねに紛争があって、「明日死ぬかもしれない」ことが日常。だからもう、どれだけ精一杯生きるかですよね……って、こんな結論でいいのかな。

ピョートル バッチリです! 今日はありがとうございました!