終身雇用が機能しなくなったいま、私たちはどう「働く」べきなのか。多くのビジネスパーソンが次の「モデル」を模索し、話を聞きたがる二人がいる。

一人は、グーグル、マッキンゼー、リクルート、楽天など12回の転職を重ね、先日『どこでも誰とでも働ける』を出版するなど最先端の働き方を実践するIT批評家の尾原和啓氏。

もう一人は、多くの著作を通じて日本人の働き方をアップデートしようとし続けるピョートル・フェリクス・グジバチ氏。ピョートル氏は、「会議」こそが日本人の働き方を変えるカギだと、新刊『グーグル、モルガン・スタンレーで学んだ日本人の知らない会議の鉄則​』(ともにダイヤモンド社)で主張した。互いに「盟友」だと言う二人が、会議術を軸にして、「これからの働き方」を前後編で語る。(構成:大矢幸世)

42のプロジェクトを回し、シンガポールからバリに通勤

ピョートル 尾原さんとは久しぶりですよね。あれ、いまはバリに住んでるんでしたっけ? 尾原さんは、お会いするたびに違う会社だったり、違うところに住んでいたりするから。

尾原 今は妻と娘がバリに住んでますね。僕のワークベースはシンガポールで、バリからLCCで3時間半くらいなので、「鎌倉から通勤してる」みたいな感じですよ。今回も先週の火曜朝に日本に着いて、今週末はロンドンのカンファレンス、来週はエストニアに行って……ぐるぐる周ってる感じ。

ピョートル 仕事は何をされているんですか? 

尾原 いまは42のプロジェクトに携わっていて、半分くらいは新興国のクライアント。基本的には新規事業のコンサルティングです。あと、「IT芸人」ですね(笑)テレビやラジオに出演して。

ピョーちゃんはいま、どんな感じで働いてるの?

上司に本音を言えない国・日本の「これからの働き方」尾原和啓(おばら・かずひろ)
1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレイトディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)、Fringe81(執行役員)の事業企画、投資、新規事業などの要職を歴任。現職の藤原投資顧問は13職目になる。ボランティアで「TEDカンファレンス」の日本オーディション、「Burning Japan」に従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。著書に『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』(NHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)などがある。

ピョートル 僕には4つの柱があって、1つはプロノイア・グループで組織変革や人材開発のコンサルティングをしています。2つ目は、ソフトウェア開発のベンチャー。3つ目はさまざまなパートナーと組んで、これから可能性のありそうな領域のプロジェクトを立ち上げています。いま一番期待しているのは教育領域かな。4つ目は……尾原さんが「IT芸人」なら、僕は「ガイジン芸人」(笑)

尾原 そういうの、うまいよね(笑)。エリートキャラと「ガイジン」ボケキャラを使い分けて。

ピョートル そう、「ガイジン」だから、ある意味思い切ったことが言えるので、こうして講演したり、本を書いたりで情報発信しています。

上司に本音を言えない国・日本の「これからの働き方」ピョートル・フェリクス・グジバチ
プロノイアグループ株式会社 代表取締役 / モティファイ株式会社 取締役 チーフサイエンティスト
ポーランド生まれ。2000年に来日しベルリッツ、モルガン・スタンレーGoogleを経て、2015年独立して現職。『0秒リーダーシップ』『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのかグーグルの個人・チームで成果を上げる方法』『New Elite』『Google流 疲れない働き方』著者。

会議が変わらずに、日本人の働き方は変わらない

ピョートル そうそう、今日はなぜ尾原さんと話すことになったかというと、僕が出したばかりの本『日本人の知らない会議の鉄則​』のためなんです。

尾原 ピョーちゃんとはひさびさだからつい話しすぎちゃうんだよ(笑)

ピョートル 僕は、日本人の働き方問題の中でもっとも深刻なのが会議だと思うんです。いくら「働き方改革だー!」って言っても、会議がダメなままだと何も変わらないでしょう?

今日は、その会議術の本当に根幹のところをお伝えしたいんです。まずは「すべては『逆算』」ということですね。

上司に本音を言えない国・日本の「これからの働き方」

尾原 じゃあ、スライドに沿ってお話ししていきますか。

ピョートル 日本人の会議は、とにかくアジェンダが積み重なるばっかりで、逆算の視点がないんですよ。

その会議を開くことで、「どんな現象を起こしたいのか」。これを、ゴールの鉄則として常に持っておかないといけません。参加者になにか意思決定をしてほしいなら、どんな気持ちをつくり、どんな現象を起こせばみなさんが「OK」と言ってくれるのか。そのフローを逆算して会議を設計しなければならないんです。もし経営者が「月へ行こう」というゴールを掲げるような人だったら、本当にみんなの心を動かすような感動的なコミュニケーションをしなければ、実現することなんてできないでしょう?

尾原 そこまで大きいゴールだと、論理的にどうこうという話じゃないからね。

ピョートル 会議って、大きく4種類しかないと思うんです。「決める」「生み出す」「伝える」「つながる」。

「決める」というのは、まさに「月へ行く」という意思決定。

「生み出す」は、アイデアを集めて、これまでにないコンセプトをつくること。だから、僕はゴールからの逆算で考えて、たとえばイノベーションミーティングなら、公園へ行って、子どもたちとわいわい遊びながら話したりします。普通の会議室で形式どおりの会議をして、いいアイデアが生まれるわけがないですからね。

それと「伝える」。日本の会議の「伝える」は間違いだらけなんですよ。メールで伝えれば十分なことを、わざわざ2週間待って、会議の場で報告しなきゃいけない。いったい何のため?って。

尾原 「伝える」って本来、情報共有とは違うんですよね。相手のボールを受け取って、そのボールを持って次のフィールドへ走る、というところまで含めて「伝える」なんです。それってつまり、「コミットメントをつくる」ということ。「相手を主人公にしてあげる」ために、どうやって褒めるか、奮い立たせるか。

ピョートル そうですよね。僕は、会議で伝えるのは、告白やプロポーズくらい大切な話だけであるべきだと思うんです。それほど大事な話だからこそ、単なる情報共有じゃなくて、本当に相手に伝わっていないといけない。

日本の戦後の経済成長は「上司に本音を言わなかったから」?

ピョートル もう一つ、「つながる」ための会議。じつは、これがいちばん重要なんですけど、日本ではあまり大切にされていません。

「つながる会議」の目的は「本音で何でも話せるような心理的安全性を構築する」「誰でも自分らしく会社にいられるようにする」ということ。これができていないチームは、前に挙げた3つの「決める」「生み出す」「伝える」のメソッドを使っても、うまく会議を設計することができません。

本を書いてるときに僕のフォロワーや友人を中心にFacebookでサーベイを取ったんだけど、「上司に本音を言うべきか?」という質問に対して4人に1人はNo。「上司に本音を言っていますか?」という質問に対しては、3人に1人がNoだったんです。コメントを見てみると、「上司に本音を言うと、逆ギレされる」とか、「本音を上司から周りにバラされる」とか……グワーっといっぱい意見があって。いったい、この国はどうすればいいんでしょう?

尾原 逆説的だけど、日本が戦後「アジアの奇跡」と言われるほど復活できたのは、「本音を言わなかったから」かもしれない。つまり、道路やビルとか工場とか、つくらなきゃいけないものが明確な中で、どこよりも早く、安く、いいものをつくるのが、日本の勝ちパターンだった。そりゃあ本音は隠して黙々とやったほうが勝てますよね。でも残念ながら、その勝ちパターンでいける時代は多くの分野でもう終わっている。

ピョートル 一般的に日本人のみなさんは「飲みニケーション」が上手だけど、翌日になると元に戻ってしまうのが、不思議なんですよね。酔っ払って、上司にズバズバ本音を言っても、翌朝には何事もなかったように振る舞ってしまう。結局「お酒の場だから」という言い訳を使わないといけないくらい、心理的安全性が足りていないんです。

「トップのメールを全員が見れる」。究極のホラクラシー経営

ピョートル 会議から話は逸れますけど、うちの社員は僕のメールアカウントに全員アクセスできるんです。ですから、僕がどんなメールをやり取りしているのかもわかっています。きちんと社員とつながっていないとできないですよ。

尾原 こわっ! でもすごい象徴的ですよね。つまり、「トランスペアレント(透明)」だということ。

ピョートル うちは「ホラクラシー」なんですよ。一応、社長の僕がハンコを持っているけど、給与もいちばん安い。みんな平等で、マネジャーもいない、フラットな組織なんです。そして、「ペアワーク」で働いています。

尾原 「ペアワーク」?

ピョートル 同じプロジェクトに向かって2人で働くと、お互いにチェックするからサボらないし、限られた時間の中で議論していると、新たなアイデアが生まれたりする。考え方や価値観を共有するので、とても仲が良くなるんです。社内に限らず、社外のパートナーともペアワークしています。

尾原 へー、面白いことしてるね! 特に日本人って、「相手のために」となると、自分のためよりがんばれる人は多いからね。ちょっと思い出したのがハイネケンのCMなんだけど、政治観やLGBT、環境問題やフェミニズムについて主義主張の違う人ふたりが、初対面でまったくお互いの背景を知らないまま、一緒にイスを組み立てるんですよ。いろいろと話をしながら作業していくとバーカウンターができて、ハイネケンが出てくる。そこで、互いの主義主張が明かされて、「乾杯するか、出ていくか」を選択させるんです。そりゃもう、乾杯するか、とふたりでビール片手に和やかに議論を深めていく。つまり、ペアワークで一度、運命共同体になって、何か一緒にプロジェクトをすると、たとえ考え方が違ったとしても仲間になれるんですよ。相手とつながることの大切さを伝えるいい例ですよね。

ピョートル そうなんですよね。つながりを重視しているから、僕らの人事制度は「個人を評価しない」んです。うまくいかないプロジェクトはどんどん切っていくけど、誰かを「この人はヤバいぞ」と切るようなことはしない。人を評価するのではなく、プロジェクトか担当領域を評価するんです。

尾原 なるほど。面白いことするねぇ。

ピョートル その代わり、採用基準はめちゃくちゃ厳しいです。そもそもまだ小さな組織だからできているのかもしれないけど、採用するのに2、3年くらいかけるんです。その間に会って話して、その周囲の人とも交流するから、その人の評価はもう十分知っている。だから個人の評価はいらないんです。

尾原 いや、それって小さい会社であればあるほど重要だけど、近ごろ「チームビルディングが大事」とよく言われるじゃないですか。でも実は8割方「チームメイキング」の問題なんです。採用するときにちゃんと「Why」が揃ってるか、「パッション」があるか、「カルチャー」が合っているかどうか……。

逆に大企業の場合は、「チームの適切な解散」ができているかどうかが重要。一時は素晴らしいチームビルディングが成されていても、次のプロジェクトでもそのチームがふさわしいかどうかは別問題です。

人と会社のつながりは、もっともっと「なだらか」でいい

ピョートル 僕らの採用基準は厳しいけど、それこそ小さな組織で一緒にいることになったら、「一生涯の関係」として考えてもおかしくないですよね。うちのスタッフには、実は「ゆくゆくは独立したい」と考えている人がいるんです。でもそれは全然かまわない。「いってらっしゃい」と見送ることもあれば、一緒に独立して新たな会社を立ち上げてもいいし、投資してみようか、となるかもしれない。

尾原 実際、僕もそうですよね。12の職を渡り歩いて、昔ならとんでもない働き方かもしれないけど、おとといまた古巣のリクルートから、新規事業コンテストの発破をかけるために呼ばれたりして(笑)。なんか、恋愛と結婚、働き方と会社の関係って、ある種、似ていますよね。

ピョートル 「契約」ですよね。

尾原 そう、昔って結婚するかしないか、1か0かだったんですよね。離婚することもそう多くなかった。でも、仕事に置き換えてみると、1か0か、だけじゃなくて、0.1の関係や0.5の関係もあり得る。会社を退職しても、0.1くらいの関係でつながりつづけられるかもしれない。実際、ピョートルさんもまだGoogleとともにプロジェクトやってますもんね。そういうふうに「人とのつながりはなだらかなものだ」というふうに考えられると、人生の選択肢が増えるんですよ。

ピョートル そう、日本人の働き方の問題って、会社と個人、個人と個人のつながり方の問題が大きいんですよね。ここをアップデートしていかないといけないんです。