ソフトバンクと総合商社は極めて似通った企業

 さらに1980年代後半から1990年代にかけては、先端技術産業としての新素材や情報通信分野への進出の可能性をうかがいながらも、事業投資が増えていくようになる。そして、1990年代に入ると「川下」への進出が進むようになる。

 まず、大手総合スーパーが、経営危機で子会社のコンビニエンスストアの株式を手放した際、総合商社がそれを取得する形で、コンビニ業界へと進出した。現在では、コンビニ業界2位のファミリーマートは伊藤忠傘下、同3位のローソンは三菱商事傘下である。

 ただし、総合商社は単純に「川下」である小売事業者を押さえるだけではなく、自身の子会社である食品卸を中核に関係会社の統合を進め、中間流通も含めて影響下に置いている。

 自らが持つ機能を有機的に組み合わせ、情報収集から企画・立案、資金調達、原料・資材などの調達、建設受託、販売先の開拓などを行うというオーガナイザーとしての機能をこうして総合商社は身につけていくのである。

 総合商社のオーガナイザーとしての能力は、そもそも商社が「川中」の存在であった頃から、「目利き」や「見立て」、あるいは「リスクヘッジ」という価値を提供してきた事実に依拠している。

 もちろん、90年代における情報通信分野への事業投資については、その多くは失敗に終わったという声も多い。

 しかし、収益力強化を至上命題として掲げる総合商社は、経営の中心を事業への投融資へとますますシフトさせるようになっている。今や、総合商社は「総合事業投資運営会社」と言った方が適切だ。

 総合商社のユニークな点は、単なる投資会社とは異なり、自ら経営と事業の育成を行っている点である。総合商社は投資主体と言っても、初めから売却などの出口を考えるのではなく、事業の継続を前提としており、自らが持つ他事業との連関を強く意識しているのである。

 そうして考えると、ソフトバンクと総合商社は極めて似通った企業である。すなわち、そもそもは卸売事業会社(トレーディングカンパニー)として始まった企業であったにもかかわらず、現在は、川上から川下までを押さえた総合事業投資運営会社として、事業の継続を前提としてバリューチェーンを構築するオーガナイザーとしての機能を生業としている点である。

 そして、実はそれ以上に重要とも言えるのが、両者ともに、自らの事業活動のミッションとして社会貢献を明確に意識していることである。