総合商社は時代の変化の中で自らの存在価値を変革させた

 ところが、それぞれの総合商社がどのようなミッション・ステートメントを掲げているかを見てみると、第7回で見た東芝やキヤノンにも似た「誰にでも当てはまる」ものとなっており、ミッション・ステートメントとして見るべきものは何もないのが現実である。

 例えば「三方良し」を事業基盤とする伊藤忠商事は「Committed the Global Good:個人と社会を大切にし、未来に向かって豊かさを担う責任を果たしていきます」を企業理念とし、「三方良し」を言い換えたに過ぎない。

 また、業界最大手の三菱商事は三菱第4代社長・岩崎小彌太の訓諭をもとにした「三綱領」と呼ぶ行動指針を企業理念としているが、これを端的に言うと、「全世界的、宇宙的視野に立脚した事業展開」を通じて「物心ともに豊かな社会」を「公明正大で品格のある行動を旨とし、活動の公開性、透明性を堅持する」ことで実現する、といった調子である。

 これは同じ大手の三井物産、住友商事、丸紅にも通じ、決して彼らはシリコンバレー企業ばりのミッション・ステートメントを持っているわけではない。

 それでも、何度も存亡の機に直面しながら、今なお総合商社が隆盛を誇っていられるのは、そのようなお題目とは無関係に、時代の変化の中で常に自らの存在価値を自問しながら、自らの存在価値を時代に合わせて変革させていったという事実に負う部分が大きい。

 そして、その結果として、総合商社は世界でも稀有な業態として彼らの存在価値を強固なものとし、現在の地位を保っていると言える。重要なのはミッション・ステートメントの存在ではなく、常に自らの存在価値を考えて事業を構築していくという姿勢と実践であることを、この総合商社の例は示している。

(この原稿は書籍『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)