もちろん、スターバックスコーヒーにとっても外食不況が大きな壁として立ちはだかり、進出から最初の10年は苦しみました。しかし、2005年ごろから、ブランドの浸透と共に財務状況は安定し、急成長へとつながっていきました。

 不景気で苦しいときにも、スターバックスコーヒーが一貫して続けたことはいったい何だったのしょうか。

 実は、スターバックスコーヒーの店舗には接客サービスに関するマニュアルがありません。サービスについては一人ひとりのパートナーの判断に委ねられています。マニュアルに従って動くのではなく、自分の意思で判断し、行動することを求められます。

 つまり、店舗で起こる全てのことに、パートナー一人ひとりがオーナーシップを持っているのです。これは、店舗運営の常識から考えれば、驚くべきことです。

 例えば、リッツカールトンホテルのような、客単価および専門性の高いサービス業においては、このような取り組みは有効でしょう(リッツカールトンホテルでは、従業員が主体性をもって顧客サービスを実現できるように、2000ドルの決裁権を各従業員が持ちます)。

 しかし、1000店舗を超えるコーヒーチェーン店において、一人ひとりの成長と育成に向き合い、時間をかけて育てていくということは、非常にリスクの高いことです。辞めてしまったらそれまでの育成コストが無駄になってしまうからです。

 スターバックスコーヒーは、リスクを取ってでも、人を育成することに賭けて、パートナーが提供するサービスにこだわり抜き、結果、ブランドを浸透させることに成功しました。

 だからこそ、契約社員を正社員にして長く働いてもらうことは、非常に理がかなった戦略なのです。

「店長」を信じて人材育成を任せる覚悟

 このような優秀なパートナーは、一体どのように育成するのでしょうか。その秘訣は、やはり顧客と接する現場の店舗にあります。

 スターバックスコーヒーの研修は、全て店舗で行われています。店舗から遠く離れた本部が作ったマニュアルを覚え、研修所で一括研修をするという業界の常識を覆す取り組みです。