この程度の地震のためにさんざん騒ぎまくり、数千億の防災予算を付けたのか。それともそのおかげで、東京は地震に強い都市になっていたのか。
「数はもっと多くなるな。しかし、さほど大きなものではないだろう。問題は帰宅困難者だ」
東日本大震災では、東京でも515万人におよぶ帰宅困難者が出た。駅や会社、避難所に泊った者もいたが、歩いて自宅に帰った者も多かった。警察や消防が、火事や余震による危険性を訴えても帰りたい者は帰りたいのだ。
以後、何度も訓練を行なったが、やはり有効な手立てはなかった。
「JRが全面的に動き出すには、2、3日かかるそうです。地下鉄は何ヵ所かで落盤があって、復旧には1週間近くかかります」
「インフラはどうなってる。都内は全面的に停電になっていると言っていたが」
「電力は一部をのぞいて明日の午前中には復旧の見込みです。現在、大部分の主要ビルは非常用電源で最小限の電力を供給しています」
東日本大震災時の教訓で非常用電源の設置が、首都圏でも広範囲に広がったのが功を奏したのだ。
「しかし、長引くとどうなるか分かりません」
「どういう意味だ」
「ディーゼル発電機の燃料がなくなります。長いところでは1日、短いところでは数時間分の燃料しか用意していません」
「ガソリンスタンドはどうなってる。地震で壊れたわけでもないだろう」
「大半のガソリンスタンドが閉まっているということです」
「だったら開けさせろ。非常時だ。文句は言わせない」
「スタンドの責任者と連絡が取れないそうです。連絡が取れても、交通機関が全面的に止まっています」
「自衛隊はどうなっている」
「出動準備をして待機しています。要請があれば直ちに都内に入って来ます。ただし、現状で自衛隊が出来ることは少ないかと思われます。かえって混乱する恐れがあります。消防と警察で対応できています」
「他のインフラは?」
「ガスと水道は、明日1日は止まるという話です。国民に発表しましょうか」
総務大臣が言った。
「もう知ってる。地震が起こって数時間後にはテレビで言っていた。しかし政府からの情報として流しておいた方がいいか。直ちに手配してくれ」
総理はふうっと、ため息をついた。張り詰めていた緊張が切れ、一瞬意識が消えていく錯覚に陥った。