「予想してたさ。ただいつ起こるか、日時までは分からなかった。近い将来という他はね。マグニチュード5から6クラスの地震を繰り返しながら、という表現だけど」

「繰り返しながらって言うと――」

「言葉通りさ。大地がウォーミングアップしている。そして、いずれ本番が始まる」

 高脇は落ち着いた声で言った。その顔と声は妙な自信に溢れている。

 森嶋は優美子に視線を向けた。

 優美子は研究所を出たときから無言で歩いている。

「どう思う」

 森嶋の声にもしばらく反応がなかったが、やがて口を開いた。

「私には分からない。でも、東京から逃げ出したくなったのは確かね。あれがウォーミングアップなんて言われたら」

「最初、小さな地震って言ったんだ。村津さんに話すべきかな」

「もう知ってるんじゃないの。総理にも論文はいってるんでしょ」

 森嶋は頷いた。しかし、どう扱ったかは知らない。森嶋が読んだのは数時間前だ。

「だからヘンに落ち着いてて、私たちに冷静に指示を出してた。上の人は納得ずくなのよ。地震学者は高脇さんだけじゃないでしょ。内閣府の中央防災会議だってあるし、今度の地震については政府はもっと権威のある学者に助言を求めているはずよ」

「だったら、国民にも何らかの発表があってもいいんじゃないか」

「何を発表するって言うのよ。彼も言ってたでしょ。発生の日時まで分かる地震予知なんて無理な話なのよ。神様じゃあるまいし」

「だったら、分かる範囲のことでも言うべきだ」

「ヘタに発表なんてするとパニックが起こるでしょ。東日本大震災以来、各地で余震を含めてけっこう大きな地震が起きている。日本中の人が敏感になってるのよ」

「しかしこのままじゃ、本番ではもっとひどいことが――」