「なんで俺たちが彼女に会わなきゃならないんだ」
「私たちの手に余るからよ」
森嶋に返す言葉はなかった。たしかに、どうすべきか分からない。
2人はいちばん近いコーヒーショップに入った。
30分後には森嶋と優美子は理沙と向き合って座っていた。
理沙は数枚のコピー用紙をテーブルに置いた。
「予測されていたマグニチュード5の地震。すでに政府は知っています。国民も知る権利があります」
理沙が1枚を2人のほうに向けて、指さして読み上げた。
残りの用紙の大部分は、ついさっき森嶋たちが高脇の研究室で見せられたものだ。専門家が見れば説明なしでも十分に理解できるものなのだろう。
「社にメールで送られてきたの。新聞社、テレビ局などマスコミ関係にね。これによると、近い将来に東京直下型の大きな地震がくることを言い当ててる。それが昨日の地震というわけ」
「僕たちが高脇の研究室で見たものです」
高脇の説明とは若干の違いはあるが、それは言わなかった。優美子も黙っている。
「見たって、あなたたち高脇准教授と会ったの」
「1時間ほど前に、研究室で説明を聞きました。理沙さんからの電話の前です」
理沙がポケットに手を入れて、携帯電話を出した。
「ごめんね、社から」
そう言うと席を立ってコーヒーショップの外に出ていった。
「あなた、口が軽すぎるわよ」
「我々の手に余るから相談するんじゃないのか」
「だからって、こっちの手の内をすべてさらけ出すことないんじゃない」
理沙が帰ってきた。後輩からよ、最近の若いのは本当に頼りにならないんだから、と2人に言って座った。
「これと同じものが政府にも送られ、説明もされている。でも、私たちは何も知らされていない。だから当日は大混乱が起こり、それは今も続いている。それについてはなにも言ってなかったの」
森嶋は優美子を見た。テーブルの用紙を見つめているが、なにを考えているかは分からない。
「何か隠しているわね。あなたは嘘を付けないって言ったでしょ」
「ウォーミングアップだそうです」
優美子が突然、顔を上げて言った。
(つづく)
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