今年になってNFMI(近距離電磁誘導)採用のトゥルーワイヤレスイヤフォンが続々登場している。今回試したB&O Play「Beoplay E8」も、そのひとつ。音の良し悪しで選べる、数少ないトゥルーワイヤレス機として注目したい製品だ。
Beoplay E8の価格は、Amazon.co.jpで税込2万9903円。Amazon.co.jpでは同じNFMI採用の「EARIN M-2」が2万7952円、「Jabra Elite 65t」が2万2600円で売られている(7月27日時点)。このあたりがNFMI採用機の中心価格帯になってくるのだろう。
NFMIを選ぶ理由
まず、NFMIのなにが優れているのかを簡単におさらい。トゥルーワイヤレスイヤフォンは、文字どおりワイヤーのない快適さが一番のメリット。しかし左右のケーブルを廃してBluetoothでつなぐのは技術的に無理があった。人体は半分以上が水でできているので、2.4GHz帯の電波を通さないのだ。
イヤフォンを着けた左耳と右耳の間を、電波は頭部の周囲を反射しながら大きく迂回することになる。その途中でノイズの影響を受け、左右の音切れ、遅延から定位の揺れという問題が起きるのだ。
それを解消するのがNFMIという技術。電磁誘導でごく短い距離にしか届かないが、左耳と右耳の間を直進できる。耐ノイズ性に優れ、遅延も少ない。実際、NFMI採用機をいくつか試してみて、安定性の高さには驚くばかり。
これで、やっとステレオオーディオ機器としての基本が成り立ったことになる。ただし、イヤフォンと再生装置の間は相変わらずのBluetooth接続なので、ノイズの影響を受ける。それでも左右間の接続は安定しているので、ネックバンド型のBluetoothイヤフォンに近い感覚で使えるようにはなった。
質感に配慮されたシンプルデザイン
そこでB&O Playの今回の機種というわけだが、その前に「B&O」はともかく「Play」とは一体なんぞやという話。どうやらバング&オルフセンの若年層向けカジュアルブランドということらしい。3万円に迫る価格のどこが若年層向けかという話もあるが、デザインはシンプルながら、手に触れる部分の質感に配慮があるのは好ましい。
バッテリー内蔵の充電ケースはシボ加工された人工皮革で覆われて、自動車のダッシュボードのような質感。伸縮性のあるストラップが付いていて、意外と有用。どこかにぶら下げたりするだけでなく、カバンの中から取り出す際にも、ポロッと落とす心配が減る。ケースとイヤフォン本体は、弱い磁力で吸い寄せられる仕組みで、フタが空いた状態で逆さにしても脱落はしない。
イヤフォンの充電時間は約2時間、再生時間は最大4時間。充電ケース内のバッテリーは、USBケーブルにつないで約2時間でフル充電。それでイヤフォンを2回充電できる。イヤフォンの重さは右が約7g、左が約6g、充電ケースは約45gでまとまっている。軽くもなければ重くもない。対応するコーデックはAAC、ドライバーは5.7mmのダイナミック型。
イヤフォンとして特に高性能という訳でもないが、必要なスペックはフォローしている。最近のBluetoothイヤフォンの必須機能化している外音取り込み機能も付いてくる。本体のスイッチでオンオフを切り替えられるほか、スマートフォン用アプリ「Beoplay」で、外音と再生音の音量バランスを3段階で調整できる。
「これ音良いよ」と気軽に言える
スペック的には普通だなあという第一印象だが、そこはさすがにB&O。NFMIが使えるということで、本気でチューニングにかかってきたのだろう。ワイドレンジで解像感もあり、シャープな定位と音場の広さは、今までなかったもの。この機種を選ぶ上での一番のポイントは、この音どう評価するかだろう。早速だが、同じNFMI機と比べてみよう。
まずEARIN M-2は、高域のレスポンスが弱い。そして音圧感はあるが輪郭のはっきりしない低域のおかげで、全体的にもっさりした印象を与える。この点でBeoplay E8に対して、かなり部が悪い。
Jabra Elite 65tは低域がマッチョ、かつ中音域の情報量もあって、Beoplay E8に対しては音の太さを感じる。が、よくよく聴き込むと、ボトムエンドのレスポンスが薄く、低域がやや腰高なおかげで、レンジが狭く感じてしまう。
ただ、JabraとB&O Playは、棲み分けができるように思う。ワイドレンジなB&O Playと、音の厚いJabra。どちらも傾向の違う音作りで成功している。そもそも5000円ほど安いJabraは、この設定でいいのではないか。そしてEARINはコンパクトにまとまったガジェットとしてのカッコ良さが身上だ。
Beoplay E8は「これ音良いよ」とサラッと言える、正統派のバランスを持ったイヤフォンだと思う。やっとトゥルーワイヤレスにもこういう機種が出てきたのかと、ちょっと感動すらしてしまった。
ちなみに、先のアプリには、XY座標をポイントして帯域バランスを調整する、ユニークなイコライザー機能が付いている。でも、イヤフォン本体のバランスが良いので、あまり使う場面もないのではないか。
装着性、操作性は並のレベル
逆に、並のレベルだと思えるのが装着安定性。特にスポーツモデルを散々やってきたJabraのElite 65tに比べると、形状も重量バランスもあっちは上手だなあ、と感じる。Beoplay E8は重心位置が耳穴よりずっと上にあるため、ちょっとしたはずみでズレやすいのだ。
ただ、付属のComplyのウレタン製イヤーピースで解消する。しかもイヤーピース素材のウレタンやノズルのフィルターが、高域成分を適当に吸収してくれる。ほかに比べて「若干ハイ上がりで、低域が薄い」と感じたらイコライザーよりも先に、Complyを試すべき。
もうひとつ並みレベルだと思うのが、操作がイヤフォン左右両側面のタッチセンサーなこと。EARIN M-2もそうだが、目視できない部分に反力のないタッチセンサーを使うのは、誤操作を招くのでやめた方がいいのではないか。センサー部分の外周にリングが付いているので、タッチ自体はしやすいのだが。
文句は以上2点のみ。Beoplay E8を試用してみて、もうNFMI非採用のトゥルーワイヤレスイヤフォンを積極的に選ぶ理由は、ほとんどなくなってしまったように感じた。今後はほかの大手も採用してくるだろうし、価格破壊的な中華製品も登場するだろう。もしかしたらB&O Playの天下も長くは続かないのかもしれないが、もしいま3万円をこのために使えるのなら、しばらくは後悔しなくて済むはず。
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四本 淑三(よつもと としみ)
北海道の建設会社で働く兼業テキストファイル製造業者。