ここ数年、VR(仮想現実)とAR(拡張現実)が話題だ。しかし、マイクロソフトはその先を行く、MR(複合現実)という「物理的現実」と「仮想現実」の融合世界を生み出した。世界中の様々な業界から体験希望者が殺到し、口々に「不可能がなくなる」とつぶやかれる驚異のテクノロジーとは。3000人以上を取材したブックライターの上阪徹氏が、日米幹部への徹底取材で同社の全貌を描きだす新刊『マイクロソフト 再始動する最強企業』から、内容の一部を特別公開する。

VR、ARを超えるMRという新世界

 未来をつくるといえば今、コンピューティングの世界を一変させてしまうのではないかとささやかれているマイクロソフト発の技術がある。

 それがMR(Mixed Reality/複合現実)だ。

 コンピューターが描く世界を体験することができるVR(Virtual Reality/仮想現実)や、それを拡張させて現実に取り込むAR(Augmented Reality/拡張現実)が、ゲームの世界を中心にここ数年、大きな話題になってきた。

 日本でもブームになった「ポケモンGO」は、位置情報を活用することにより、現実世界そのものを舞台として、グラフィックのポケモンを捕まえたりすることができるゲームだが、これはARの技術がベースになっている。

 しかし、マイクロソフトが生み出したMRは、これとは違う。日本マイクロソフトのMicrosoft 365ビジネス本部でHoloLens/MRを担当する上田欣典氏は言う。

「世の中には二つの世界があります。ひとつは今、我々が存在していて感じることができる物理的な世界。もうひとつは、デジタルの世界です。コンピューターの中の世界で、あたかもそこにあるかのような世界。我々が言うMR/複合現実とは、物理の世界とデジタルの世界が融合した世界なんです。そうすることで、新しい価値や体験を提供していくことができます」

 テクノロジーを使用せず、人間の感覚によって実在していると認識される物体や環境が「物理的現実」。視覚や触覚など、人間の感覚機能に働きかけるように人工的に作り出された体験や環境、物体が「仮想現実」。これら二つの“現実”が融合したまったく新しい世界が、「複合現実」=MRだ。

 VRやARと混同されることも少なくないという。特にARに関しては、たしかに現実の世界にデジタルが加わっていると捉えれば仲間のように思えるが、大きな違いがある。上田氏はこう続ける。

「物理的なものが、ちゃんとあるように扱えるということです。現実の物理的な空間は、MRではスキャンされて認識されています。ですから、例えばデスクの上にデジタルのモノを何か置くというときに、ちゃんとデスクの上に置くことができるんですね。めりこんだり、デスクから落っこちてしまったりしない」

 そして物理世界でデスクを動かすと、バーチャルの世界でもちゃんとデスクが動かされる。常に空間は三次元でスキャンされ、コンピューターの中で実際のものかのように扱うことができるのだ。上田氏は言う。

「ARの場合は、現実世界にベタっとシールのようにデジタルの情報を貼り付けているだけなんです。わかりやすい例でいうと、ポケモンGOではモンスターを見ることができますが、モンスターの背中を見ることはできません」

 背中に回ろうとすると、モンスターはまたこちら側を向いてしまうのである。データが貼り付けられているだけだから、こうなるわけだ。上田氏が続ける。

「端的に言えば、ARもVRも全部包含する広い領域をMRと言っています。ARとVRではカバーしていないような、新しい体験を提供するのがMRです」

 そしてこのMRを実現しているのが、マイクロソフトが開発した「HoloLens/ホロレンズ」というデバイスである。自己完結型のホログラフィックコンピューター「HoloLens」を頭に装着し、HoloLensを通して現実世界を見ることで、MRが可能になるのだ。

HoloLens(ホロレンズ)

 MRのプラットフォーム「Windows Mixed Reality」は、Windows 10のOSに組み込まれている。HoloLensは、パソコンとのケーブル接続は不要。一方で、MR用のコンシューマー向けヘッドセットも売り出されている。こちらはパソコンとケーブルで接続する。

 HoloLensをつけてのMRを実体験させてもらうことができた。詳しくご紹介していこう。