今や合計100万人以上が訪れる「働き方改革」の聖地として有名な日本マイクロソフト。シアトル郊外にあるアメリカ本社では、社員はどのように働いているのだろうか。3000人以上を取材してきたブックライターの上阪徹氏がアメリカ本社に足を踏み入れ、新しい発想を生み出すオフィス環境から、現地で働く人たちのフレキシブルなワークスタイルまで取材。株価最高値を記録するマイクロソフトの好調ぶりを支える、マイクロソフト流ワークスタイルとは?上阪徹氏の新刊『マイクロソフト 再始動する最強企業』から、内容の一部を特別公開する。

米マイクロソフト本社で、<br />「効率的な働き方」を取材してきた

単なる「Windows」「Office」の会社ではない

「もしかすると日本では、マイクロソフトという会社が本当の意味で理解されていないのではないか」

 先にマイクロソフトという会社の印象が大きく変わった話を書いたが、そのときに感じたのが、こんな思いだった。

 もちろん、知っている人は知っている。すでに触れたように、テックイベントなどでは、数千人もの人たちが押し寄せていたりするのだ。

 ウェブサイトで検索してみても、「マイクロソフトはすごい」という情報はたくさん目にすることができる。しかし、それは検索したら、の話である。

 アメリカでは、それこそ時価総額で常にベスト5に入っている会社。超優良企業として、リスペクトされる会社として知られている。では、日本ではどうか。

 情報システム関連の仕事に就いている人やパソコンに詳しい人を別にすれば、「WindowsやOfficeを作っているアメリカの大きなソフトウェア会社」くらいの認識しかないのではないか。

 少なくとも、イノベーティブな会社というイメージはあまりないかもしれない。実は私自身が、かつてはその程度の認識しかなかったのである。

 では、そんな私の素人目線で、「マイクロソフトの本当の姿」「今のマイクロソフト」を見に行けばどうなるのか。挑んでみたいと思った。

 業界に詳しい人、マイクロソフトをよく知っている人にとっては、「何を今さら」という話ばかりかもしれない。だが、多くの人はそのことを知らないのだ。

 その知らない人にこそ、マイクロソフトという会社を知ってもらいたいと思ったのである。なぜなら、ここから学べることがきっとあると思うからだ。

 マイクロソフトは1975年にビル・ゲイツ氏、ポール・アレン氏らによって設立された、コンピューターのソフトウェア会社である。パソコンのオペレーティングシステム、いわゆるOSの開発に成功し、シェアをどんどん伸ばしていった。

 また、ビジネス向けの表計算ソフトやワープロソフトなどを開発。競争を繰り広げながらビジネスを拡大させていった。さらに、サーバーソフトウェア事業、ハードウェア事業、オンラインサービス、クラウドなどに事業を拡大していく。

 クライアントソフトウェアには、Windows、Office、Edge/Internet Explorerブラウザなどがあり、サーバーソフトウェアには、Windows Server、SQL Server、Exchange Server、SharePoint Server、Dynamicsなどがある。

 ハードウェアでは、ゲーム機のXboxのほか、自社製造のデバイスとして、Surfaceシリーズを開発、販売する。

 クラウドサービスでは、クラウドプラットフォームのMicrosoft Azureに、日経平均銘柄の8割以上が使っているというOffice 365、ビジネスアプリケーションのDynamics 365も手がけている。

 これ以外に、オンラインサービスのOneDriveやSkype、検索エンジンのBing、さらには巨額の買収額が話題になったLinkedInもマイクロソフトのグループ企業になっている。

 ひとつのポイントは、ビジネスの8割は今や法人向けになっているということだ。中高年以上の世代は、20年以上前の「Windows 95」のブームを覚えている人も少なくないが、その後、会社は法人向けのビジネスを大きく拡大させていくことになる。

 その転身が大きな話題になった、日本IBMの研究職から2016年に日本マイクロソフトCTOに転じた榊原彰氏は、こう語る。

「入社してまず感じたのは、ポートフォリオの広さです。やはりWindowsやOfficeが中心 のイメージが強いですが、思った以上に製品や技術のポートフォリオは広かった。例えばデータマネジメントやイベント処理など、基礎的な製品群も外から見ていたときより、自分で使ってみたり、お客さまの相談に乗ったりしていると、かなりよくできていることがわかりました。エンタープライズ向けに、しっかりした性能を持っているということです」

 その上に豊富なラインナップの製品群があって、データの可視化で意思決定がやりやすくなるなど、具体的なベネフィットを提示できていると感じたという。

「もうひとつは、製品やサービスの拡充のスピードが速いことです。現在の変革でもそうですが、ビジネスオペレーションのみならず、技術ストラテジーや意思決定も速い。全世界で10万人以上いる会社で、これだけのスピードで動ける会社はそうそうないんじゃないでしょうか」

 榊原氏は、前職でIBMのディスティングイッシュト・エンジニアという技術職のグローバル最高位のポジションにいた。選ばれし人しかなれないポジション。

 そんな榊原氏には、マイクロソフトから何度も誘いがあったというが、いよいよ転身を決めたのは、サティア・ナデラCEOになってからの興味だったという。

「非常にオープンになって、面白いことをたくさんやり始めていて。そこに魅力を感じたんです」