壁に穴を開けたり内臓を取り出したりできる驚異の世界

 HoloLens実体験は、まずヘッドセットをかぶるところから。メガネの上からでも、もちろん装着できる。私のようにメガネをしている場合は、まっすぐかぶって後ろのヘッドバンドで固定する。コンピューターだというので、もっと重いのかと思いきや、そんなことはまったくない。これなら、それなりの時間、かぶっていても大丈夫そうだ。

 やや上目遣いでスクリーンを見ると、カーソルが見つかった。向こう側には、デモを体験している部屋が広がっている。見渡してみると、たしかに部屋の中にあったものがレンズ越しに見える。しかし、リアルな世界だけが見えているわけではない。HoloLensがつくり出した3Dコンピューティングの世界も広がっているのだ。

 実際、「壁に穴を開けてみましょう」という上田氏の声が飛んできた。指示通りに指で操作をすると、奥にある壁に穴が開いた。もちろん、リアルな部屋では壁には穴は開いていない。しかし、壁に近づいてみると、穴の向こうには飛行機から見えるような景色が広がっていた。

 続いて、床にも穴を開けてみる。その下には上空から見た街の景色が広がっている。もちろん、実際に穴が開いているわけではないが、物理世界とコンピューターの世界が複合的に融合しているのだ。

 アプリケーションの体験が始まる。目の前に出てきたのは、コンピューターグラフィックによってつくられた、人間と同じ大きさの人体模型。

「では、人体模型のまわりを回ってみてください」

 模型のまわりをぐるりと回る。背中、後頭部、大腿部など、身体の裏側の筋肉が広がっている。たしかに360度、見ることができる。しかし、驚いたのはこの先である。操作ひとつで、人体模型の皮膚がなくなり、筋肉がむき出しになったのだ。また操作すると、今度は血管の流れがわかる映像に。さらに、骨格だけの映像にもなった。要するに、人体の構造が外側から順番に見られるわけだ。

世界中から体験希望者が殺到!<br />VRを超える驚異のテクノロジーとは?360度スケルトンで臓器が見える人体模型

 しかし、最も驚いたのは、映像が最初に戻ってからである。

「では、頭をお腹の中に差し込んでみましょう」

 なんのことか、と思いながら、恐る恐る頭を人体模型に近づけてみると、模型の中に“入れて”しまったのである。そしてそこに広がっていたのは、人間の内臓だ。

 要するに、立体的になった人体模型の中に頭を入れて、身体の中を覗くことができたのだ。胃があったり、腸があったり、心臓、腎臓、十二指腸など、臓器をすべて原寸大で見ることができる。しかも、立体画像になっている。

 このアプリケーションは、実際にケース・ウェスタン・リザーブ大学の医学部向けのトレーニング教材として開発されたものだという。人体を解剖するのではなく、こうして3Dのアプリケーションで、体内がどうなっているのか、リアルに見ることができるというわけだ。

 続いて指示された通り、「ネクスト!」と音声コマンドで指示を出すと、全身の筋肉だけがスケルトン状になって現れた。

 ひとつの内臓だけを取り出したり、それを輪切りにしたり、いろいろな操作が可能になるという。そしてHoloLensの画期的なところは、同じ画像を複数の人間が同時に見ることができるということである。

 Skypeをはじめ、Windows 10で使える、さまざまなアプリケーションも動かせる。だからこそ、教育のみならず、ビジネス領域での応用が期待されているのだ。上田氏が言う。

「ひとつのシナリオに、メンテナンスがあります。例えば、エレベーターのメンテナンスに、ノートパソコンを持ったエキスパートが駆けつけるには数に限界があります。ましてや本社ではなく、海外の顧客のエレベーターとなればなおさら。そこで、HoloLensをつけた海外の作業員が行く。もし何かわからないことがあれば、Skypeで呼び出して、HoloLensに出ている映像を共有して見てもらえばいい。本社では、映像を見たエキスパートが指示を出す。エキスパートが現場に行って指示を出さなくても、HoloLensでサポートを受けながら現地で解決することができるようになるわけです」

 マイクロソフトが作っている、MRのムービーの内容はもっとわかりやすい。小売店が新しい店舗をどうデザインしていくか。これまでなら、グラフィックでイメージを作って、プレゼンテーションすることが一般的だっただろう。

 しかし、HoloLensなら、実際に陳列する什器やモノのデータを取り込んでおけば、リアルな店舗のスペースに自由に並べていったりすることができるのだ。スタッフ全員がHoloLensを装着していれば、それを全員が体感できる。あっちに持って行ったほうがいい、こっちに持って来たら、ということが、実際の空間上で可能になるのだ。

 すでに、設計・デザイン、組み立て・製造、トレーニング、コミュニケーションなど、さまざまな取り組みが現実化している。