マイクロソフトは変革にともない、人事評価や人材育成のやり方も大きく変えた。非常にユニークなのが「インパクト」という評価基準だ。成果主義に基づく数字評価から、抽象的で主観的な評価へと、あえて変えたのだ。新基準では、売り上げを立てるだけの社員は評価されなくなる。果たしてその狙いとは?3000人以上を取材したブックライターの上阪徹氏が、日米幹部への徹底取材で同社の全貌を描きだす新刊『マイクロソフト 再始動する最強企業』から、内容の一部を特別公開する。

株価史上最高値を記録するマイクロソフト流「驚異の評価制度」

マイクロソフトの新評価基準「インパクト」とは?

 会社の方向性、考え方、さらには目指すべきカルチャーが変われば、評価制度や求める人材も変わっていく。

 評価については、一足早く、新しい制度が導入されていた。これが、極めてユニークなものだった。問われるのは、「インパクト」だというのである。

 従来あった仕事を一生懸命やっていたところで、それだけでは評価にはつながらない。会社や市場にどんなインパクトを与えることができるか、が評価基準になるのだ。

 背景にあるのは、カルチャー変革のキーワード、「グロース(成長)マインドセット」である。成長のために、いかに新しい取り組みをするか。自ら学習し、自分を成長、変革させていけるか。そのためにもインパクトを目指す。新しい取り組みを行わないといけない。

 日本マイクロソフト業務執行役員 コーポレートコミュニケーション本部 本部長の岡部一志氏は言う。

「ビジネススタイルが変わるわけですから、当然、評価も変わってきます。必要な人材、こんなスキルを持っていてほしい、というものも変わるわけです」

 だが、もちろん以前は成果主義、数字主義、はっきりしたアクティビティ評価が行われていた。これが、抽象的で主観的な評価に変わっていったのだ。まったく新しい評価の考え方だけに、当初は大きな混乱があったという。

「最初は混乱しました。例えば広報にしても、どのくらいPRができたか、例えば掲載ボリュームを数字に置き換え、それが評価の対象になっていたんです。しかし、今は違う。たくさん掲載されればいいわけではない。求められるのは、インパクトなんです。掲載数が少なくても、インパクトが大きいほうが価値がある、とも言えます」

 3ヵ月に1度、上長とのステータスチェックのための面談「コネクト」を実施している。面談前に、「コネクト」の社内ツールに4つの質問への回答を入力する。まずは、「この期間、どんな貢献をし、どんなビジネスインパクトを残したのか」ということ。会社への貢献でもいいし、チームへの貢献でもいい。顧客への貢献でも、もちろんいい。

 そしてその上で、その結果として、ビジネスにどんなインパクトを与えたかが問われる。

「インパクトはどうだったか。インパクトにつながった貢献が問われるんです。インパクトが見えていなかったら、貢献したかどうかは判断されません。まずは、インパクトを書かないといけない」

 その上で、次なる質問は「さらに大きなインパクトをもたらすためには何ができたか」ということ。さらに、「次の数ヵ月でどんなインパクトを目指すのか」が問われる。

 ここで記したものが、その後の定期的な上長との一対一での面談で使われ、次のコネクトで振り返る。

 最後に、「インパクト達成に向けてどんな学習をしたり、自身の今後の成長に向けて何を行うか」である。これらのコネクトを繰り返し実施することが、半期や年間の評価のベース指標にもなる。

 加えて、自分を評価してほしいメンバー、仕事で関わりのあった社員、マネージャーに評価をお願いすることができる。ここでも評価の対象はインパクトだ。

「どんなインパクトが出せるのか。最初は書くのが難しいです。だから、こんなアクティビティをしてこのくらいの数字をやります、と書いてしまう。広報なら例えば100件、記事を出すなど。しかし、これではインパクトがわからない。そこで、コネクト提出後に上長が4項目すべてに講評をしてくれるんです。もっとこうしましょう、こうしたらよいのではと。そして、上司と部下の一対一で議論もします」