体験してもらわないと理解しづらいことが唯一の弱点?

 さらに、HoloLensの活用は海上にも広がっている。世界中の船舶に動力システムや制御システムを提供している、山口県下関市に本社のあるJRCSでは、海洋事業者向けの遠隔トレーニングや航海中の船舶における遠隔メンテナンスソリューションに加えて、近い将来、船舶の自動航行が実現した際に陸上から複数の船舶をコントロールするデジタルキャプテンまで、実用化に向けてさまざまな検証を進めている。

 例えば、HoloLensを活用した遠隔トレーニングでは、MRを用いた空間共有や、制御システムなどの実製品とデジタルコンテンツの融合、Microsoft Translatorの翻訳機能も活用することで、さまざまな場所にいる船員が、いつでも、どこにいても、言語・時間・距離の壁を越えて、機器やシステムの操作などのトレーニングに参加できるようになる。

 遠隔メンテナンスでは、船舶の特殊事情まで熟知した経験豊かなエンジニアのスキルをMR上でも展開できるようにし、船内にいるエンジニアが船舶のメンテナンスを行う際にHoloLensを装着すると、機器の上に作業手順などが表示され、より安全に短時間で作業できるようにする。そうして海運・海洋産業における働き方改革の推進につなげることを目標にしているのだ。

 マイクロソフトは、MRというプラットフォームを提供。実際には、顧客自身やパートナー企業がアプリケーションの開発を推し進める。パートナー企業からも注目度は高いという。そしてパートナー認定のためには、アメリカ本社に行って、専門の開発者とのやりとりを経て認定される。

 上田氏は言う。

「弱点は、体験していただかないと理解しづらいことです。これが、唯一の弱点かもしれません(笑)」

 実は、アレックス・キップマン氏がコードネーム「Project HoloLens」をこっそりと開発していたのは、社外からのゲストもマイクロソフトのIDなしで入館できる92号棟だった。

 建物直下の地下にあるラボは、ほとんどの社員ですら存在を耳にしたことがないほど、秘密にされていた。キップマン氏はICカードをカードリーダーにかざし、そこに至る二重扉を通り過ぎ、毎日のように階段を降りて行ったのだ。

 そんな92号棟をめぐる裏話も、HoloLensに関する日本の見学者からは好評なのだそうである。

(この原稿は書籍『マイクロソフト 再始動する最強企業』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)