そのとき、足元がわずかにふら付いた。森嶋は自分にぶつかってきた早苗の身体をかろうじて支えた。

「震度3程度かな。このビルは免震工法が使用されているの。ダンパーを入れて揺れを3分の1以下に減らしてる。外ではもっと揺れているはずよ」

 早苗が森嶋から身体を離しながら言った。

 ふっと高脇のことが脳裏に浮かんだ。

 以前にも同じような話を聞いたことがある、と森嶋は思った。高脇に会ったときは、常に地震と揺れの話を聞かされていた。聞き流していい加減な返事をしていたが、今となってはもっと真剣に聞いておくべきだった。

 しかしその高脇はどこに行ったのか。昨夜松下から電話があったきり、なにも言ってこない。

 森嶋は目の前の都市模型に神経を集中しようとした。

 村津が話し始めた。

「新たな移転場所の選定に入るつもりだ。今後は自然災害からの安全性を第一に考えなければならない。交通、通信、輸送においては、かつては10年かかった技術進歩が1年の速度で進んでいる。東京とはテレビ電話で結び、人の移動を極力減らし、必要な場合は飛行機とリニアモーターカーで行き来する。そうすれば距離的ハンデも克服できる」

「九州や四国でも可能ということですか」

「今、もっとも重要なのは、世界が認める災害に強い首都だ。日本に次の大災害が起こったとき、無傷で指示を出せる首都だ。都市造りに最適の広大な土地があり、海と空と日本全土に通じている場所が存在すれば問題ない。必要なのはスピード、つまり決定力だ」

 50年、100年経てば、さらに新しい首都が出来ると考えているのだろう。そしてそうでなければ、国は続かないと考えているのだ。

 村津、早苗、森嶋は2時間ほどで事務所をあとにした。