首都とはその国の歴史、文化、そして未来をあらわす、国家の顔であらねばならない。
「でも、ちょっと――いえ、ずいぶん違ってた」
早苗がからかうように言って、森嶋を見つめている。
「合理性と機能性だけを追求した近未来型の都市。その通りです。私たちはそれを目指して設計しました。20世紀から21世紀へと時代は移り、日本という国家も国民も大きく変貌してきました。合理性と機能性。この二つは現在の日本には、もっとも必要なものだと思いませんか」
長谷川の問いに、森嶋は答えることが出来なかった。おそらく日本人のほとんどは、逆の考えを持ってるのではないか。合理性と機能性からの脱却。優しさや癒しを求めて田舎暮らしに憧れている中高年、若者も多い。
「私たちのテーマは、流れです。時代の流れ、都市の流れ、国の流れ、文明の流れ、人の流れ。すべては流れの中の1コマにすぎません」
「と言うと――首都も時代と共に変遷していくと」
「奈良、京都、東京と日本の首都は移りました。奈良300年、京都1000年、江戸を含めると東京400年。時代の節々で日本は大きく変わりました。特に江戸から東京。日本は近代化を目指して国民が一丸となって突き進みました。そしてそれを成し遂げた。そして、日本という国は現在も、そしてこれからも変わりながら続いていく。今の時代は日本は江戸時代の開国に次いで、さらに世界との関わりが強くなっていきます。それを象徴した首都にしたい」
「いずれこの首都も、さらに新しく生まれ変わると言うのですか。首都も流れの一部にすぎないと」
「そうあらねば、国の発展も国民の幸せもないでしょう。いずれは世界そのものが大きく変わる時が来る。ソ連が別れ、ヨーロッパが一つに近づいたときもありました。アジアが一つになり、やがて世界が一つになることもあり得ます。東京にこだわることもないし、新しい首都に固執することもない。それが私たちの考えです」
「人の一生は、長くて80年。その間に学び、習得し、成長していく。企業も30年同じコンセプトで生き残っていくことはできない。常に新しい息吹を吸い上げ、生かしていかなければ衰退するばかりだ。国も同じだ。そして国民も同じだ。日本も新しく生まれ変わる必要があると思わないかね」
村津が長谷川に続けた。早苗も大きく頷いている。