エレベーターの中で携帯電話を見ると着信履歴が十余りある。その大部分が優美子と理沙のものだった。森嶋はマナーモードを切ってポケットに戻した。
外に出るとすでに陽は沈み、街はネオンの明かりで満ちていた。
「驚きました。なぜ、他のメンバーにあの模型を見せないのですか」
「あれが政府や国民が求めている新首都だと思うかね」
「否定されるでしょう。首都とはもっと重みのある、国の権威を象徴すべきものだと」
「だからしばらくは秘密にしておきたいんだ」
「ではなぜ、私に見せたのです」
「君のアメリカでの論文に通じることがあると思ってね。君なら分かってくれるような気がした。我々の考えが」
村津は前方を見詰め、歩き続けながら言った。
森嶋の脳裏には新首都の模型が貼りついていた。今まで漠然とであるが想い描いていた荘厳で国の象徴である首都とは、まったく違ったシンプルで合理的なものだった。果たして、あれが日本を象徴する首都と呼べるのだろうか。その思いはぬぐい去れない。
タクシーを探して表通りに歩き始めたとき、村津の携帯電話が鳴り始めた。
「官邸に呼ばれている。悪いが君たちは勝手に帰ってくれ。森嶋君も役所に戻る必要はない」
村津がタクシーに乗って行ってしまった後、森嶋と早苗は顔を見合わせた。
「食事でもしていきましょうか」
早苗が口を開いた。
(つづく)
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