欧米に根付くワイン教育

 私は10年以上にわたり、ニューヨークのオークション会社クリスティーズのワイン部門にて、ワインスペシャリストとして多くの経営者や富裕層たちと関わってきました。そこでも、やはり欧米でワインが文化として根付いていることを痛感しました。美術や文学などと並び、重要な教養のひとつとして深く生活に浸透しているのです。学校からビジネスシーンまで、さまざまなところでワインの教育が重要視されています。

 もちろんそれは、ワイン伝統国のフランスやイタリアだけの話ではありません。英国の名門大学、ケンブリッジとオックスフォードでは、60年以上にわたり、大学対抗のブラインドテイスティング大会が繰り広げられています。ブラインド対決にのぞむ学生たちは、日々ワインを嗜たしなみ、味や香りを覚え、畑やヴィンテージ(ぶどうの収穫年)による微妙な違いを学んでいます。

 スイスのボーディングスクール(全寮制の学校)では、16歳の女の子たちが10代にして、すでにぶどうの特徴、造り手のスタイルを理解しています。ワインが必須科目として授業に組み込まれ、10代からワインを学ぶ場が提供されているのです。友人同士が集まるランチの場でも、食事に合わせてそれぞれが好みのワインを選びます(スイスでは16歳からワインの飲酒が法的に認められています)。

 アメリカでも、一流ビジネスパーソンたちがこぞってワインを学んでいます。ワインは単なる「お酒」ではなく、グローバルに活躍するビジネスパーソンが身につけておくべき万国共通のソーシャルマナーのひとつとして捉えられています。

 特に国際色豊かなニューヨークでは、クライアントの接待などの際、テーブルに会する人は、皆白人とは限りません。最近ではアジア系やインド系の方もビジネスシーンの中心にいます。接待するホスト役にとって、異なるバックグラウンドを持つ人たちに適切なワインを選ぶのは至難のわざです。ただし、そこでスマートに的確にワインをオーダーできたら、ビジネスを有利に進められることは間違いありません。接待される側も選ばれたワインについて気の利いたコメントができれば距離が縮まり、仲間意識も深まることでしょう。

 ワインの知識は、ビジネスを円滑に進めるうえでの重要なツールであり、高い文化水準を兼ね備えるエリートであるかどうかの「踏み絵」としての役割も果たしているのです。