マネジャーの「答え」を押しつけてはいけない

 もっと言えば、そもそもマネジャーが「答え」だと思っていることは、実際には「答え」ですらないことがあります。要するに、「勘違い」なのです。

 私自身、そんな「勘違い」をしそうになったことが何度もあります。たとえば、ある問題についてメンバーの相談に乗っていると、「解決策がわかった」と思う瞬間があります。もちろん、それを口にするのを耐えているのですが、内心では「早く答えにたどりついてくれないかな……」などと思っていることもあります。

 ところが、しばらく考え込んでいたメンバーが妙案にたどりつくことがあります。それも、私が出していた「答え」とは次元の異なる、明らかに優れたアイデアだったりします。そのとき私は、「ああ、したり顔で“答え”を言わなくてよかった……」と胸をなでおろすとともに、「もしも、自分の“答え”を押しつけていたら、この優れたアイデアは生まれなかっただろう」と思い知らされるのです。

 クライアントのエピソードをご紹介しましょう。
 あるアパレルの店舗にコンサルティングに入ったときのことです。その店舗のマネジャー(店長)は、仕事熱心でメンバーのことを大切に思っている方でしたが、やや一方的に指示を出すことが多い傾向がありました。そこでまず、メンバーの意見を聞き出すことに専念してもらうことにしました。すると、実はマネジャーの指示が、メンバーを困らせていたことがわかったのです。

 それまでマネジャーは、お客様の来店状況を見ながら、接客スタッフが足りないと判断したら、バックストックで商品を整理しているメンバーに「接客して」と指示をして、お客様が減ってきたら、「バックストックに戻って」と指示をしていました。マネジャーが機敏に采配をふるうことで、最少人数でお店を回すことができると考えていたわけです。

マネジャーが「非」を認める

 ところが、実際には、これがバックストックの作業ミスの増加を招いていました。
 商品整理をしている途中で、急に「店舗に出て」と言われるために、バックストックに戻ってきたときに、どこまで整理したのかわからなくなってしまうからです。また、接客スタッフからも、急に「バックストックに入って」と言われることがあるため、「接客に集中できない」という声があがってきました。結果として、残業も多い状況を生み出していたのです。

 これを聞いたマネジャーは、非常にショックを受けていました。当然です。自分が「正解」だと思っていたことが、むしろ、メンバーを不安にさせたり、ミスを増やす原因になっていたわけですから……。

 しかし、彼はその現実を受け入れて、やり方を抜本的に変えました。
 何時ごろにお客様がどのくらい来店するかといったビッグデータをもとに、「この時間帯は店舗に3人」「この時間帯はバックストックに2人」などを開店前に決めて、ほとんど変えないようにしたのです。

 その結果、店舗スタッフは接客に集中できるようになるとともに、バックストックの作業ミスも激減。しかも、自分たちの意見を受け入れてくれたマネジャーに対する信頼を深めたメンバーたちの士気が一気に高まりました。チーム内の「関係の質」が大幅に向上したのです。

 その後、マネジャーは一方的に指示する姿勢を改めて、メンバーの意見に耳を傾け、メンバーに「学ぼう」とするようになりました。そして、次々とメンバーの意見を取り入れることによって、売上を伸ばすとともに、なんと「残業ゼロ」を達成することに成功したのです。