「あなたは、本当に相手の話を聞けているのか?」
共感と信頼を得るためのワーク<3>「オウム返し」

 アゴのワークの途中から、会場の空気に大きな変化が表れた。参加者同士が一気に打ち解けた雰囲気になって、思い思いに話をし始めたのだ。もし松橋氏が止めなかったら、いつまでも会話が終わらないくらいの盛り上がり。これこそが、アゴの魔法の威力なのだろうか――。

「盛り上がってきましたね(笑)。ラポールが築けると、見知らぬ人同士が、一気に打ち解けた雰囲気になります。僕のセミナーも毎回こんな感じで、途中から参加者のみなさんが雑談しているのを止めるのが大変なんですよ」

 会場の熱気を確かめた松橋氏は、最後のワークへと進む。普段の松橋氏のセミナーでは、動作を合わせるペーシングや、声のトーン、しゃべるスピードを合わせるワークなどもある。しかし、この日は短縮バージョンということで、数あるスキルの中でも即効性を重視。松橋氏が選んだのは、オウム返し(バックトラック)のワークだった。

 バックトラックは、『「聞くだけ」会話術』の第2章でも紹介されている。相手の言葉の一部を繰り返すスキル。「言葉のバックトラック」と「意味のバックトラック」があり、言葉は誰でも簡単にできるが、意味はかなり難易度が上がる。

 たとえば、相手が「日曜に家族でスカイツリーに行ってね……」と言ったとする。言葉のバックトラックなら、「スカイツリーですか」とオウム返しをすればOK。

 意味のバックトラックとは、話の内容を繰り返す。つまり、開業間もないスカイツリーに行くのは凄いから、「凄いですね、羨ましい」と、話の内容をオウム返しする。一見、意味のほうが気が利いているように思える

 ところが、ここでひとつ問題がある。相手の話のポイントは、本当にそこだったのだろうか。意味のバックトラックとは、相手の話を自分の言葉に置き換える行為。そこで「凄いですね」とオウム返しをして、相手に「いや、凄くないよ。人が多くてもううんざりだったんだよ……」と切り返されたらどうなるか。

 共感を得られるどころか、「こいつはわかっていないな」という印象を与えかねない。もし、相手が気の弱い人だったら、本当に言いたかった内容を、その後しゃべってくれなくなるだろう。
   だから、まずは言葉のバックトラックをしっかりマスターするのがベストなのだ。

 ワークの内容は、Aさんが楽しかったことについてしゃべる。Bさんは、それを聞く。ただし、「はい」「いいえ」の返事は禁止。質問は、AさんもBさんも禁止。Aさんは、しゃべるだけ。Bさんは、Aさんの言葉の中から一言拾ってオウム返しをする。

 オウム返しは、普段使う場面もあるし、これはさすがに簡単だろう……と思ったら、2度あることは3度ある。

 相手の言葉を拾ってオウム返しをしようとすると、大前提として相手の話を注意深く聞く必要がある。しっかり聞こうとして、相手の話に耳を傾け過ぎると、ついついオウム返しを忘れたり、相手の話が面白くて笑ってしまったり、タイミングを逃して縄跳びに入れない子どものようになってしまったりする。