今日からちょうど5年前の2013年12月12日に『嫌われる勇気』は刊行されました。8000部という決して大きくはない数字からスタートした部数は、現在185万部に達し、先日発表された2018年度の年間ベストセラー(ビジネス書)では、史上初となる5年連続トップ10入りを果たしています。
その勢いは世界に波及し、今年は欧米圏で翻訳版の出版が相次ぎました。シリコンバレーの著名ベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセンが「読むことを強く薦める」と激賞するなど、その評価は米国をはじめ、海外でも確固たるものになりつつあります。
そこで刊行5周年を記念し、著者の岸見一郎氏と古賀史健氏が久しぶりに顔を合わせて行われたインタビューの内容を、2回に分けてお送りします(後編は12月13日公開予定)。(撮影:斉藤美春)

アドラーが知られるようになった
ために生じた問題とは?

――あらためて『嫌われる勇気』はお二人にとってどのような本ですか。

アドラー心理学の入門書『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の著者・古賀史健古賀史健(こが・ふみたけ)
ライター/編集者
1973年福岡生まれ。1998年出版社勤務を経てフリーに。現在、株式会社バトンズ代表。これまでに80冊以上の書籍で構成・ライティングを担当し、数多くのベストセラーを手掛ける。臨場感とリズム感あふれるインタビュー原稿にも定評があり、インタビュー集『16歳の教科書』シリーズは累計70万部を突破。20代の終わりに『アドラー心理学入門』(岸見一郎著)に大きな感銘を受け、10年越しで『嫌われる勇気』および『幸せになる勇気』の「勇気の二部作」を岸見氏と共著で刊行。単著に『20歳の自分に受けさせたい文章講義』がある。

古賀史健(以下、古賀) 『嫌われる勇気』は、僕が20代のおわりからずっと「やりたい、やりたい」と思ってきた企画で、ちょうど40歳のときに本にすることができました。だから30代の思いが全部詰まった本ですし、40代からの道を開いてくれた本だと思っています。

岸見一郎(以下、岸見) 私がアドラー心理学を本格的に学び始めたのは、1989年でした。アドラーの著作をコツコツと翻訳したり、解説書の執筆を続けていましたが、反響はそれほどありませんでした。それでも、「誰かがやる必要がある」と思って続けていたところ、思いがけず古賀さんとの出会いがありました。そして『嫌われる勇気』という本が生まれたのです。
 本書がきっかけでアドラーがこれほど知られるようになったことには非常に驚いています。以前は講演会のたびに、「アドラーとは、こういう人です」という話から始めなくてはならなかったのですが、今はそんな必要はありません。他方、問題が出てきていることも事実なので、激動の5年だったと思っています。

――問題とはどのようなことですか。

岸見 アドラーの思想は非常にシンプルであるだけに、本を読んで「自分はアドラーを理解した」と思ってしまう人が多いのです。そのうえ極めてパワフルな理論なので、自分の人生が本当に変わりますし、他者もアドラー心理学によって変わり得る。その現実を知った人が、アドラー心理学を他者を操作するために使おうとするのです。これはアドラーを正しく理解せず間違った目的で使っている点で大いに問題です。