さらに、低金利環境が、業態の垣根を越えた競争の激化をもたらしている。どういうことか。
「これから稼ぎどころだったのに……」。ある中部地方の信金幹部はため息をついた。事の発端は、事業再生を専門に扱う組織から紹介された融資案件だ。業績が悪化し、銀行が融資をしなかったため、自分の信金に話が回ってきた。
リスクを冒して支援したことで企業は黒字化に成功。ところが、その途端、低い金利を提示してきた県内の地域銀行に融資をさらわれたのだ。これまでの努力が無に帰し、悔し涙を流したという。
このように、中規模の企業にも融資ができる信金は、地銀と顧客層が近いため横取りの対象とされやすい。ただ、信金よりも信組の方が根付いている地域においては、地銀と信組のぶつかり合いが加速しているといえる。
関西地方の信組関係者は、ある案件の実情を知った瞬間、「何だこれは」と絶句した。それは、業績が悪化した地方旅館の再生案件。地域密着を掲げる同信組が10億円近い金額を融資し、貸し倒れに備え引当金も積んでいた。
実は、この案件には「地方創生」を掲げる県内地銀も融資していたのだが、ふたを開けてみると、地銀が融資と同額の土地を担保として押さえていると判明。地方創生を掲げ、信組と競合する融資を実行するも、地銀が許容できない倒産リスクは信組に押し付ける格好となっていたのだ。
「地方創生なんて口先だけだ」と同関係者は怒りをぶちまける。
この業態を超えた競争は「昔からあった」(大手信金幹部)というが、地銀が未曽有の金融緩和に乗じて、低金利攻勢で信金・信組の“領域侵犯”をする動きは、かつてより頻発しているといえる。
このように地域金融機関同士の競争が過熱する中、システム投資やITツールの活用を進めることで、中長期的なコスト構造の改革に着手する金融機関も出ている。
福島県にあるあぶくま信用金庫は、東日本大震災により大きな被害に遭った。地域によっては、今なお営業再開のめどが立っていない支店があるのが実情だ。
その後、中間管理職を中心とする人材流出が深刻化したが、「職員の3分の1以上を30歳未満の若手が占めるようになった」(渡邊健一専務理事)こともあり、若手が使いやすい「タッチ伝票システム」などを東北地方で初めて導入。事務の効率化を図り、長期的な経費削減を掲げている。
他にも、金沢信用金庫(石川県)はシステム投資に3億円を投入。取り組みの一つとして、今年12月には全支店にタブレット端末を導入する予定だ。
こうしたIT活用は、他業界と比べるともはや時代遅れ。業界内でシステム投資ができるのは「経済的な余力があるところばかり」(関東地方の信金幹部)という側面もあるものの、危機感の差という点も否めない。
というのも、株式会社である地銀が株主から圧力を受けるのに対し、信金・信組は非営利組織。つまり、信金・信組の株主は、“仲良し”の地元企業であり、「ガバナンス面に決定的な違いがある」(大手銀行OB)というわけだ。
一方、生き残りを懸けて、さらに経費を削減できる策を講ずる信金・信組も現れている。それが合併という劇薬だ。(一部敬称略)