自分が食べておいしいと思うことは二の次だ。

 だから、日本でどんなに有名な店でも、値段があまり高くなければ、周囲に自慢しにくい。それが本当にいい店なのかも中国人自身には価値判断できないし、「日本ではこんなに有名な店だけど、コース料理は安かったよ」というのは、友人から「それってどうなの?」「ケチなんじゃない?」とさえ思われかねない。

 つまり、彼らにとっては値段が高い料理を食べることは、自身のステータスに直結しているのだ。日本人だったら「こんなに大きなカニなのに、こんなに安かった!」というのは逆に自慢になるのだが……。

「もっと高いコースはないのですか?」と聞かれ
びっくりすることも

『日本の「中国人」社会』(日本経済新聞出版社)、著者:中島恵、新書:232ページ
『日本の「中国人」社会』(日本経済新聞出版社)、著者:中島恵、新書:232ページ

 そういえば、私も昨年、仕事で九州を訪れた際、ふぐの老舗店で、女将さんからこんな悩みを打ち明けられたことがあった。

 その老舗では夜のふぐのコースが最も高いもので2万5000円くらいだったが、女将さんは「最近、うちの店にも中国人の富裕層のお客さまがやってきてくださるようになりました。お値段が高いかなと思い、恐る恐るメニューをお見せすると『これだけですか。もっと高いコースはないのですか?』と聞いてくるので、びっくりするのです。値段を上げてもよろしいのでしょうか?」と話していた。

 日本人的には「あまりお値段が高くてはお客さまに申し訳ない……」とか「高すぎると来ていただけないのでは」という心配があるが、一方の中国人観光客にしてみれば、「わざわざこの老舗を探して出かけていったのに、値段が“安くて”ガッカリした」という、今の中国人ならではの思いがあるかもしれない。

 双方の考えが擦れ違っているとしたら残念だが、そこには、急激な経済成長によってモノやサービスの値段がつり上がり、価値観さえも変わっている中国の現状や背景、中国人のメンツなどが関係している。

 日本人の側もそれを理解し、日本の飲食事情をきちんと説明する必要があるし、そろそろ富裕層向けのマーケットも考えてみる必要性もあるのではないだろうか、と考えさせられた。