その背景にあるのが、10月に控える消費増税だ。ビール類は軽減税率の対象から外れ、店頭価格が上がる。節約志向の高まりから、安価な新ジャンルの需要が一層高まるという読みだ。

キリンビールの布施孝之社長
「本麒麟」のヒットで本格志向の新ジャンル市場を開拓したキリンビールの布施孝之社長 Photo by Y.S.

 その際の差別化要素となるのが、「本格」や「キレ」といったビールの特徴にいかに近づけるかということだ。そのためには莫大な開発投資が欠かせない。キリンのある幹部は「本麒麟の成功は、主力ののどごしが販売減になることを覚悟し、本気で投資を行ったことにある」と明かす。

 足元でビール類市場は14年連続で縮小し、今年の全体需要も2%程度落ち込む見通しだ。減少するパイの奪い合いが本格化する中、主戦場の新ジャンルで勝てなければ企業として生き残れない。

 まさに生死を懸けた“乱打戦”となる様相の新ジャンル市場だが、その先に待ち受けるのはおそらく、誰も望んでいない業界の苦境だ。

サッポロ本格辛口
サッポロビールが4月2日に発売する「サッポロ本格辛口」

 新ジャンルはあくまで“ビール風”の発泡性アルコール飲料であり、ビールではない。サッポロの髙島英也社長は「新ジャンル市場でしっかり戦いたい」としながらも、「ビールを伸ばさずしてサッポロビールの存在意義はない」と強調する。それは経営維持のために新ジャンルの安売り競争に参戦せざるを得ない業界共通のジレンマの表れでもあろう。

 だが、安価でかつビールと変わらない味の新ジャンル商品が大量に出回れば、わざわざ高価なビールを手に取る必然性はなくなる。各社は無論、飲み応えやきめ細かい泡などビール独自の価値訴求も忘れてはいないが、新ジャンルに流れた需要がビールに回帰するかは不透明だ。それを決めるのは、あくまで消費者である。

 新ジャンルは2020年以降、段階的に税額が引き上げられ、ブランドの淘汰が予想される。一方で税額が下がるビールは追い風となるはずだが、各社が開発にしのぎを削る“ニアビール”の存在は、ビール市場のさらなる縮小を招きかねない。