効果は目に見えて出た。PS4のコントローラーには、左上の“1等地”に「SHARE」と書かれたボタンがある。これを押すと自分のゲームプレイの動画等をウェブ上にアップロードできるのだが、これぞ、UXワーキンググループで発案されたボタンなのだ。

 自分のゲームプレイのシェアというのは、PS3の時代からコアゲーマーがさまざまな手順を追って行っていたことだった。それをボタン一つでできるようにしようという発想である。

 「遊び心ですよね。西海岸の人は、『シェアもシンプルにできればいいよね』と、広い視点で柔軟に考える。しかも、そんなゲームのプレイとは関係のないボタンをコントローラーの“1等地”に付けようっていうんですよ」(伊藤)。

 結果的に、シェアボタンはユーザーに大いにウケた。インスタグラムの大流行に象徴されるように、世の中には自分のやったことをウェブにアップしたいという欲求があふれつつあったのだ。

縁の下の力持ちに徹する
ハード開発責任者の妙案

 こうして振り返るとUXワーキンググループは万事順調に成果を出したかに見えるが、実はそれも伊藤の妙案によるところが大きい。

 ワーキンググループ開催から1年くらいたったころのことである。伊藤は白熱した議論が行われることを好ましく思う半面、「あ、これはまずいな。まとまらない」とひそかに冷や汗を流し始めたという。

 打開策として決意したのが、ゲーム界の重鎮であるマーク・サーニーのワーキンググループ取りまとめ役への起用だ。一歩も引かぬ構えのメンバーも、尊敬する人が仕切るとなれば、無意味な意見の主張はしなくなった。

 一方、「ゲームソフトの作りやすさ」についてはUXワーキンググループでの検討の他、ゲームクリエーターを何社も回って意見を募り、念を入れて追求していた。

 手を抜かなかったかいあって、この過程でゲームの表現力を左右するメモリーの容量が見直されることになる。クリエーターが、当初予定していた倍の容量を求めていることが判明したのだ。

 メモリー容量の倍増で大幅なコストアップに頭を抱えたものの、飽くなきコストダウンで何とか399ドルでの売り出しに成功したPS4は、発売から約5年で世界累計8120万台以上が販売されている(7月22日時点)。これは歴代PS史上、最速のペースだ。

 そんなヒットを飛ばした伊藤には、少し前にある“ごほうび”が渡された。「よくやったな」。久夛良木からの、貴重なお褒めの言葉である。(敬称略)

(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)

【開発メモ】プレイステーション4
 現行モデルではスタンダードモデルに加え、4K対応のハイエンドモデルもそろえる。併売されているVRヘッドセットをかぶることで、3Dの迫力あるゲーム空間も体験可能だ。また、オンラインマルチプレイを楽しめる他、毎月一定のゲームタイトルが追加料金なしで遊び放題になる有料会員サービス「プレイステーション プラス」も用意されている。

プレイステーション4
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