今回は50マイクロリットルできた。このDNA抽出液を0.6マイクロリットル用いてPCR装置にかけたところ、元のDNA量は1.612ナノグラム/マイクロリットルとわかった。このとき、比較するデータ(標準試料の増幅曲線データ)を用いて、ものさしデータ(検量線)を作成することで、正確に数値を導き出す(図参照)。だが、今回、この2種類のデータが両方とも証拠として提出されなかった。

 確かに検察側証人の証言通り、論文投稿では検量線データの提出は求められない。だが、検量線があるから、第三者による検証が可能になる。今回は数字だけがワークシートに記載された。

 あるいは、検量線データがない場合、再度、検査をやり直せばいいが、そのために必要な前出のDNA抽出液も廃棄された。

リアルタイムPCR機器。下方の引き出しに検体を入れると、自動で数値が表示され
る
リアルタイムPCR機器。下方の引き出しに検体を入れると、自動で数値が表示され る

 このDNA抽出液の廃棄について、検察は「ガーゼの半分は残されているので、再鑑定は可能である」と主張する。検察側証人からも「再鑑定時はまったく触れられていないものを試料として使うことが大事」と証言があった。一方、大川裁判長は判決で「試料の残余(DNA抽出液)の保存は、ぜひとも必要だった」と指摘した。

 その理由は、前述したように唾液は変性し劣化しやすい。半分に切って残ったガーゼ片で再鑑定しても信用性に乏しいと判定される可能性が高い。

 一方、DNA抽出液ついては、国立の研究所研究員(理学博士)に取材したところ、「唾液が付着した状態のまま保管した場合、核酸(DNA・RNA)が壊れやすい。が、DNAを抽出後、精製してしまえば(精製:不純物を取り除く)、質は安定します。常温の研究室に置いてあっても、PCR解析の結果には問題ない。冷凍庫で保存すれば、年単位で質を維持できます」と言う。

 そして、これは科学者なら常識ともいう。