ボーイングにとって不幸中の幸いだったのは、シリーズ中、最も早くデリバリーされた737 MAX 8でさえ、初納入が2017年5月と間もなかったことだ。今回の事故で運行停止に追い込まれているのは、すでに引き渡しを終えた376機にとどまっている。

 とはいえ、乗員乗客346人を死に追いやった大惨事であり、事態は深刻だ。ボーイングでは「グレッグ ハイスロップ・ボーイングチーフ・テクノロジー・オフィサー(CTO)以下、まさに総出で原因究明と問題解決に当たっている」(別の航空業界関係者)。

 3月13日に予定していた、20年に初納入を控える大型旅客機「777X」のロールアウト(披露)式典も中止となった。式典に参加するはずだった日本のボーイング関係者は、急にぽっかり空いてしまった時間をどうにか有効利用しようと、出張先の変更に追われるなど、てんやわんやだったという。

日本が平静でいられる理由

 もっとも、このこと自体が日本の“平和”を象徴してもいた。737 MAXの事故がボーイングに部品等を納入する国内メーカーの経営にすぐさま多大な損害を与える状況だったら、式典のキャンセル対応に心を割く余裕などなかったはずだからだ。

 少なくとも当初、日本サイドでは737 MAXの事故の影響を軽微と見る向きが多かった。というのも、そもそも737 MAXの国内メーカーによる機体製造の請負比率が、わずか数%と低い。

 中型機「787」で、機体製造で“最難関”と言われる主翼の製造まで請け負う三菱重工業ですら、納入しているのは主翼に取り付ける揚力増大装置のみだ。同様に787では1次構造材向けに炭素繊維を1機当たり30トン納入している東レも、737 MAXでは2次構造材向けにわずか同1~2トンの納入にとどまっている。

 ボーイングの損失についても楽観的に見られていた。737 MAXの事故原因は機体の向きを制御して失速を防止するシステムにあるとされる。システムの改修費や、事故によって機体の引き渡しが遅れた場合のペナルティーはもちろん、ボーイング離れを阻止するための受注価格の引き下げ交渉費など、ボーイングのコスト増は必至といわれる。

 それでも、総じてボーイング関係者による見立ては「運航再開まで数カ月、損失は数百億円程度」だった。今回の事故ではボーイングのみならず、機体を認証した米国連邦航空局(FAA)の責任を問う動きも出てきており、「米国は自らの威信を懸けて全力で運航再開に臨むはずだ」と読む関係者が多かったのだ。

 事実、ボーイングの信頼回復は待ったなしだ。米中貿易戦争の真っただ中で、中国はFAAに先駆け737 MAXの運行停止に踏み切り、国際社会にボーイングの安全不安を印象付けてみせた。ライバル機であるエアバスの「A320neo」ファミリーは、737 MAXシリーズ以上に受注を積み上げている。