色川の中央公論新人賞受賞式の様子を、後年、野坂昭如が小説『文壇』に書いている。色川の風貌をほうふつとさせる描写が面白い。

「殺風景な会場、壇上中央やや右寄り、椅子に座った受賞者は、うつむき肩をすくめ、栄えある立場なのに、恐縮の態というよりなお、非難の視線一身に浴びて、ひたすら前非を悔いる、罪人の印象だった。/気の毒なさらし者とみえた人は、中央公論新人賞を受けた色川武大、初めて聞く名前、受賞作を読んでいない。/色川が壇上にいるのだから、授賞式の進行中なのだろう」(野坂昭如『文壇』文芸春秋、2002年)

 色川はその後、1977年に泉鏡花賞、78年には直木賞を受賞して大作家となったが、阿佐田哲也のギャンブルやジャズに関する文章もさえわたっていた。高度なバクチ打ちで大衆小説と純文学の二刀流作家、そしてジャズや映画の批評家でもある。青少年の憧れの存在になって当然だった。

「麻雀放浪記2020」も公開
“若者の麻雀離れ”でも存在感は健在

『麻雀放浪記』の映画化は1984年、和田誠監督、真田広之主演のモノクロ作品で公開されている。イラストレーターとして有名な和田誠による初の映画作品で、モノクロの諧調が斬新な記憶に残る映画となった。

 今年(2019年)4月に公開された映画「麻雀放浪記2020」は、白石和彌監督、斎藤工主演による新作で、和田誠の『麻雀放浪記』のリメイクである。

 戦争でオリンピックが中止になった2020年、パラレルワールドの東京が舞台となっている。斎藤工が演じる「坊や哲」が1945年からタイムスリップしてやってくる。登場人物は原作と同じだがパラレルワールドの近未来という設定が面白い。なかなか皮肉のきいた佳品だ。この映画が漫画化され、清水洋三作画『麻雀放浪記2020』として発売されたわけでる。

 1970年代、80年代の青少年とサラリーマンにとって、麻雀はじつにメジャーな娯楽だったが、麻雀人口は急減している。『レジャー白書2018』(日本生産性本部)によると、2017年の麻雀人口は500万人で、2009年の1350万人に比べると63%減である。

 先日、ある大学の教室で約100人の学生に麻雀経験を聞いたところ、なんと経験者は1人しかいなかった。1%である。かくいう私も麻雀をやらなくなって20年以上たつが、麻雀小説や麻雀漫画は読み続けている。あのヒリヒリするギャンブルの光景は、とくに漫画には適合する世界だと思う。

(ダイヤモンド社論説委員 坪井賢一)