私の周囲にもカミングアウトをしないゲイがたくさんいます。彼らに職場でカミングアウトしない理由を尋ねたら、こんな答えが返ってきました。

「セクシュアリティと仕事は別物、職場でカミングアウトする理由がない」
「職場での評価はあくまで仕事でされるものであって、ゲイであることが評価に影響されたくない」
「ゲイであることを主張しなければならない状況がそもそも思い浮かばない」

 彼らは、オンの自分と、オフの自分を切り替えていて、職場にオフを持ち込まないことが幸せだと考えています。

 また、前述のように親の障壁は高いですから、家族へのカミングアウトを考えていない当事者も多いです。しかし、カミングアウトしていないゆえに、親の期待は大きいままなので"結婚圧力"が強すぎて実家になかなか寄り付かないという話もよく耳にします。

 それ自体は、親子双方にとって幸せな状態とは言えないでしょうが、親が嫌いだから完全に疎遠になるというわけではありません。“結婚圧力”が弱まってくる年代になると、一時的に疎遠だった親との距離がぐんと縮まる例は多いです。

 というのも、当事者の多くは独身者で、結婚している兄弟姉妹よりも老親と同居するハードルが低いからです。根底には、親の望む結婚や孫の顔を見せることはできなかった分、せめてもの親孝行は老親の面倒を見ること、という考えもあるのでしょう。高齢の親にとっても、他人である嫁に気を使うこともない独身息子との同居は悪いものでもないようで、“結婚圧力”は自然に無くなっていくという話もよく耳にします。

 実際、男3人兄弟の末っ子である私も、九州で暮らしていた父が亡くなった時に母と暮らすことを自然と決めました。兄2人は結婚して家庭を築いているし、自分が母と暮らすのが当たり前だと感じたからです。母と暮らし始めると、兄弟や母方の親戚からの”結婚圧力”はピタリと収まりました。母方の親戚は、母が幸せに暮らせる状態を何より望むものだと、このことがあって実感しました。ちなみに、父方の親戚からは厄年をとうに越えても”結婚圧力”が止まなかったのは、面白いものだなと思いました。 
 自分が高齢の親と暮らし始めると、ゲイバーで同じ生活スタイルの同年代の当事者に会う機会がなぜだか増えるもので、親の健康状態のことや介護保険の話をしながら飲むということも少なくなかったりします。