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Apple Watch Series 4

 Apple Watchは2015年に発売されたスマートウォッチです。元々は2014年9月に発表されており、発表から発売までの半年の間、人々の期待感を高めてきた製品で、最近日本でも街中で装着している人を見かけるのではないでしょうか。

 30年前ぐらい、筆者が子どもの頃、腕時計は買ってもらってものすごく大人になった気分がするアイテムでした。

 特にデジタル時計は、とてつもなくテクノロジーを感じ、用もなく毎秒切り替わる数字を眺めているものでした。もう少し大きくなって、機械式のアナログ時計の方が技術として難しく、とてつもなく高い事を知るまでは、「デジタル時計はすごい」という印象を抱き続けていたものでした。

 しかし今の子どもたちにとっては、「大人になった気分がするアイテム」として真っ先にスマートフォンが挙げられるのではないでしょうか。しかし、再び時計が「大人になった気分」アイテムに復活する可能性があるかもしれません。

 どうやら、アップルがApp StoreをApple Watch向けに用意しようとしているからです。その真偽や意図は、6月に開催されるアップルの世界開発者会議WWDC 2019で計らなければなりませんが、Apple WatchがもっとiPhoneから独立する存在となるなら、あるいは……と思います。

●Apple Watchの現在

 Apple Watchは38mm、42mmの有機ELスクリーンを持つ「iPhone専用の」スマートウォッチとして登場し、世界の腕時計ブランドの中で最も大きな売上高を上げる「時計ブランド」になりました。この意味は、スマホ業界としても、時計業界としても、深く考えさせられます。

 というのも、ロジカルに考えれば、グーグルがAndroidスマートフォンと深く連携するスマートウォッチOS「Wear OS」を用意しており、こちらの方がうまくいくのではないか、考えられたからです。

 Android Wearは世界の85%のシェアを占めるAndroidスマートフォンが前提となっており、しかもiPhoneともペアリングして利用できます。スマートフォンと同様、世界中の様々なメーカーが開発に取り組んでおり、そこにはフォッシルやタグ・ホイヤーといった人気のある時計ブランドも含まれていました。

 しかしフタを開けてみるとApple Watchがトップを取り、市場を牽引する存在となりました。IDCによると、2018年にApple Watchは4620万台を販売し、26.8%のシェアを獲得しています

 アップルのウェアラブル部門は前年同期比50%増を維持しており、その原動力はAirPodsとともにApple Watchの存在が大きくなっています。iPhoneユーザーが比較的購買力を維持していること、そうした人たちが日々を健康的に過ごそうというテーマに反応したことは、マーケティング上の勝利だったと思います。

 デザイン面で考えると、旧来の腕時計のような円の文字盤を頑なに採用しない点もまた重要だったと考えられます。

 実際、現在のデザインは文字盤をやや拡大させた第二世代に移行しましたが、それでも角を落としたやや縦が長い四角形の文字盤を堅持しています。

 非常に乱暴に言えば「ジョナサン・アイブとマーク・ニューソンが関わったからあの形になった」というほど、彼ららしいデザインですが、アイブ氏は2015年にThe New Yorkerのインタビューで「スマートウォッチをラウンドフェイスにする意味はない」と語っています

●Watch App Store?

 華々しい成功を収めているApple Watchですが、iPhoneとアップルのブランドによって成功しているという見方もくずすことができません。実際のところ、日々のアクティビティやエクササイズの計測以外は、通話や通知の受け取り、非接触のモバイル決済、そしてそもそもの時間を確かめるという、iPhoneを補佐する用途が中心。ちょっと音楽好きの人であれば、iPhoneで再生している音楽のコントロールも便利なのですが。

 つまり「iPhoneを使っているからApple Watchも」と言う人はいても、「Apple Watchを使っているから、あるいは使いたいからiPhoneを手に入れる」という動きを起こせているとは考えにくいのが実際です。もっとも、iPhoneを持っていなければApple Watchが使えませんので、AndroidユーザーがApple Watchを先に手にすることはありえませんが。

 しかし、Bloombergが伝えたニュースは、AndroidユーザーがApple Watchを先に手に入れる可能性を示唆するものです。その理由が「Watch向けApp Store」の予測です。

 Apple WatchにApp Storeを用意し、単体でアプリを追加して楽しめるようにする計画を、WWDC 2019で発表するのではないか、という見立てです。

 現在のApple Watch向けアプリはiPhoneアプリと紐付いており、iPhoneへのアプリのダウンロードで自動的にApple Watchにインストールしたり、iPhone上でApple Watchに入れるかどうかを選択できる仕組みです。

 確かにApple WatchはiPhoneとしかペアリングができないため、iPhoneが前提のアプリ活用は自然と言えます。そこを根本的に変えようというのが、Watch App Storeという存在になります。

●ハロー効果も狙っていくか

 アプリ活用にiPhoneが前提ではなくなるということは、Androidユーザーにも、Apple Watch活用の可能性が開けることを意味します。

 たとえば、Android向けにApple Watchアプリを用意してペアリングや設定のサポートができるようにすればいいだけです。実際アップルは、Apple Musicや環境教育アプリなど、いくつかのAndroidアプリを既にリリースしており、全くありえない可能性ではないのです。

 同様の前例に、デジタルミュージックプレイヤー、iPodがあります。

 iPodは2001年登場当初、Mac専用の音楽プレイヤーでした。Mac向けのジュークボックスアプリ「iTunes」とペアリングして音楽を転送する仕組みだったため、Windowsからは利用できなかったのです。

 その後アップルは2002年7月に第2世代のiPodを登場させ、Windows向けiTunesを用意し、iPodをWindowsに対応させました。こうしてiPodはMacユーザーに限らず、爆発的なヒットとなりました。

 Apple Watchにも、その戦略が活用できる可能性がある、と踏んだかもしれません。MacとWindowsをiPhoneとAndroidに見立てて、Apple WatchをAndroidに対応させることで、Apple Watchの販売をより拡大させようというアイディアです。

 iPodにはいくつかの神話が実証されており、おそらくデザイン思考もその1つと筆者は解釈していますが、もう1つマーケティング上の話として「ハロー効果」があります。iPodの売り上げによってApple Computer(当時)への関心や認知が増し、Macの売り上げに貢献するというものです。

 当時のMacと現在のiPhoneでは、認知や売り上げの面でiPhoneが存分に優位な状況にはありますが、市場が飽和しAndroidからユーザーを奪うしかないスマートフォンの現状を考えれば、Apple WatchをAndroidに解放して、ユーザーをiPhoneに連れてくるハロー効果を活用する戦略は、悪くない話だと思いました。

 現在までのApple Watchアプリの活用度合いはさほど高くなく、App Storeの提供が劇的な変化をもたらすとは筆者は考えていません。ただ、Watch App Store設置によって実現できるApple WatchのAndroid対応は、大いに魅力的だ、と考えています。


matsu

筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura